小説「新・人間革命」 6月26日 敢闘20

山本伸一は、「今日は、夏季講習会であり、諸君は、二十一世紀を担う人たちなので、少し、難しい話もしておきたい」と言って、核心に迫っていった。
 「現在は、東西冷戦というかたちで、資本主義と共産主義の対立が続いていますが、よく、創価学会は、どちらの勢力なのかと尋ねられることがあります。
 結論から言えば、学会はどちらでもありません。人間の生命を中心とした中道主義であり、人間主義です。
 真実の仏法は、円教であり、円融円満で、完全無欠な教えです。そこには、すべてが具わっています。したがって、左右両極を包含し、止揚しながら、人類の幸福と世界の平和をめざしているのが、学会の立場です」
 資本主義であっても、人びとの幸福を考えるなら、社会的弱者を守り、救済することは不可欠な要件となる。それが欠落すれば、弱肉強食の社会になってしまうからだ。
また、共産主義にも、人間性を尊重し、自由を保障することが要請されよう。
 さまざまな制度も、科学も、文化も、すべては、人間の幸福と平和の実現が、出発点であり、そして、目標である。これを忘れれば、人間は手段化されてしまう。
 その人間の幸福と平和を実現していくには、「人間とは何か」「生命とは何か」という問題の、根源的な解明がなされなくてはならない。
 そこに、人間の生命を説き明かし、人間自身の変革を可能にする仏法哲理を、世界の精神としていかねばならないゆえんがある。
 伸一は、力を込めて訴えた。
 「いかなる体制であっても、最終的に求められるのは、生命の尊厳を説く人間主義の哲学です。それがないと、制度などによって、人間性が抑圧されていってしまう。
 また、エゴイズムなどを律する人間革命がなくてはならない。特に、指導者層の不断の人間革命が必要です。そこに、権力の乱用や組織の官僚主義化を防ぐ道があるからです」