【第2回】  「仕事と信心」 ㊤2 2010-2-17

どん底から立って 一切を変毒為薬
 
棚野 今、経済不況の中、仕事の悩みも千差万別です。倒産やリストラと戦う友もいます。人員削減のため、一人で抱える仕事量が急激に増えたメンバーもいます。夜勤が続いたり、なかなか休みがとれなかったりなど、状況はさまざまです。その中で、皆、「負けじ魂」で奮闘しています。
 
名誉会長 よく、わかっています。私も戸田先生の事業の破綻を経験しました。戦後の混乱期で、中小企業の倒産が続出した時代です。まだ20代前半の時でした。会社が倒れるということが、どんなにつらいことか。私は身をもって味わいました。そのどん底から立ち上がって、莫大な負債を返済していったのです。阿修羅の如く戦った。そして一切を変毒為薬して、戸田先生に第2代会長に就任していたたく道を開いたのです。それは、「御義口伝」に仰せの如く一念に億劫の辛労」(同790ページ)を尽くし、勇猛精進しゆく一日また一日であった。
 
棚野 多くの友が、先生の青春時代の苦闘を鑑として、逆境に挑んでいます。
 
名誉会長 今の時代、特に若い皆さんが向き合う社会の環境は、大変に厳しい。非正規雇用の増加など、20年、30年前とは状況が大きく変わってきています。個人の努力とともに、社会のあり方を見直し、変えていかねばならない面もある。自営業の人も毎日が正念場でしょう。諸天善神よ、護りに護れと祈っています。御金言には、「鉄は炎打てぱ剣となる」(同958ページ)、また「金は・やけば真金となる」(同1083ページ)とあります。
今、苦労したことが、全部、自分自身の「最高の宝」になる。苦に徹してこそ、宝剣の如く、真金の如く、わが生命を輝かせることができるのです。電話の発明者として有名なアメリカのグラハム・ベル博士が、新聞記者から仕事の大変さについて尋ねられたことがあります。博士は「かなり厳しい地道な仕事です。けれどもだからこそ」と微笑みながら、「私の楽しみでもあるのです」と結論したという。どんな問題であれ、「これですべてがうまくいく」という、魔法のような解決策などない。祈って苦労し抜いて、一つ一つ乗り越えていく以外にない。仕事も同じです。そして最後は一切が大善に変わり、必ず打開できる。これが「絶対勝利の信心」です。
 
熊沢 はい。有名な「経王殿御返事」にも「わざはひも転じて幸となるべし、あひかまへて御信心を出し此の御本尊に祈念せしめ給へ、何事か成就せざるべき」(同1124ページ)と仰せです。
 
苦労こそ最高の宝! 不屈の金剛の生命を!
 
名誉会長 大聖人の仰せは絶対に間違いありません。この大功力を、皆さんのお父さんやお母さん方など、多くの先輩たちは、勇気ある信心で実証してこられたのです。
 
社会の激流で戦う 門下に真心の激励
 
棚野 先ほど、お話しくださった「御みやづかいを法華経とをほしめせ」との御文は、弘安元年(1278年)のお手紙です。「熱原の法難」が本格化する頃でした。
 
名誉会長 その遣りです。この御手紙は、大聖人が、伊豆流罪佐渡流罪に続いて、3度目の流罪に遭われるかもしれないという動きがあった時に認められました。大聖人は、もし3度自の流罪があるならば「百千万億倍のさいわいなり」(同1295ページ)と悠然と仰せになられています。これが御本仏の師子王の大境涯であられる。そして、御自身は大難を覚悟なされたうえで、社会の激流にある一人一人の門下の身を深く案じておられたのです。師匠は、あらゆる大難の矢面に立って戦っているではないか。〃弟子であるならば、自らの使命の場所で勇敢に戦いなさい!仕事でも断じて勝ちなさい!との烈々たる御心が拝されてならない。「臆病」「意気地なし」は、日蓮門下とはいえません。
 
熊沢 勇気をもって、「仏法即社会」の勝利の実証を示すこと。それが師匠への報恩となるのです。
 
名誉会長 仏道修行の舞台は、「現実の社会」です。大聖人は「まことの・みちは世間の事法にて候」(同1597ページ)、「智者とは世間の法より外に仏法を行す」(同1466ページ)と明言なされている。自分の仕事や家庭、地域のなかで成長し、向上し、人間革命をしていく。「今」「ここで」最高の価値を創造していく。そのための信心です。「いつか」「どこかにある」理想郷に行くー。それは妙法ではありません。爾前経、権経の浅い考え方です。観念論です。大聖人の仏法は現実変革の「生きた宗教」です。ゆえに、仏の異名を「世雄」(社会の英雄)ともいうのです。その通りの師子の道を、創価学会は貫いてきました。不況の中で雄々しく戦う社会部や専門部の方々の活躍は、尊い模範といってよい。
 
棚野 男子部でも、住宅建設関達の会社に勤める関東のあるリーダーは、19歳の時、アルバイトから出発しました。やがて正社員として採用、実績を評価されて異例の昇進を遂げ、社長賞も受賞しています。仕事が多忙な中、学会で新たな役職を受けるたびに弘教も実らせてきました。
 
名誉会長 本当に偉い。うれしいね。日本でも世界でも、幾十万、幾百万の青年が頑張ってくれている。私にとってこれほどの喜びはない。御書には、伝教大師の釈を引かれて「浅きは易く深きは難しとは釈迦の所判なり浅きを去って深きに就くは丈夫の心なり」(310ページ等)と記されています。この「丈夫の心」を持つ人こそ、真のリーダーなのです。(⑦に続く)
 
ベル博士の言葉は、ロバート。v・ブルース著、唐津一監訳『孤独の克服ーグラハム・ベルの障害』NTT出版から。