【第5回】 学ぶ心 育てる心 ㊤ 2010-11-13

青年を励ませば青年の生命に
SGI会長 一流になるには一流に触れよ
 
池田SGI会長 音楽は、若者の心に「磨きをかける」――。こう洞察していたのは、アメリカの民衆詩人ホイットマンです。彼は語っております。
 「よい音楽とは、確かに、他のどんな影響力にもそなわっていない方法で魂の微妙な琴線に触れる」(溝口健二著『「草の葉」以前のホイットマン』開文社出版)
青春は、永遠に開拓です。永遠に挑戦です。永遠に創造です。その勇気を奮い立たせてくれる力こそ、音楽ではないでしょうか。
師と仰ぐ戸田先生のもと、私たちも青年時代、常に決意の歌声と共に、新たな使命の闘争へ走り抜きました。
音楽には、惰性や停滞を打ち破り、生命を躍進させゆく響きがあります。
 
ウェイン・ショーター そうですね。
ジャズは、自己を表現する挑戦の音楽です。今の瞬間への挑戦の音楽です。ジャズの精神は進化し続けています。池田先生が言われる通り、その進化の中心になるのは、青年です。
 
ハービー・ハンコック ウェインも、私も、池田先生に続き、青年を育てていきたいと念願しています。
今の世の中では、若い人たちは、自身の自由闊達な世界を開拓することを、周りからあまり勧められません。うまくいく仕事だけを見つけるよう、奨励されているのです。
青年は、型にはまらないで、彼ら自身が関心を寄せる、別の事柄、別の新たな方向性を探求していくべきなのですが、そのための励ましを受けることはないのです。今、私は、若い人たちの開拓精神を鼓舞するため、できる限りのことをしたいと思っています。これは、心からの願いです。
 
池田 まったく同感です。
 「未来の果を知らんと欲せば其の現在の因を見よ」(御書231ページ)です。今この時、青年が、どれほど快活に開拓精神を燃え上がらせるか。どれほど勇敢に創造的生命を発揮していくか。そこに人類の文明の未来が託されているといっても、過言ではないでしょう。
その先頭を、世界の創価の青年たちが、欣喜雀躍と進んでいます。わが音楽隊や鼓笛隊、合唱団の友の奏でる旋律は、新時代へ前進しゆく行進曲です。
この秋には、音楽隊の代表が、吹奏楽の全国大会に出場しました。
創価グロリア吹奏楽団が「金賞」の栄冠に輝いたのをはじめ、関西吹奏楽団、創価中部サウンド吹奏楽団、北海道吹奏楽団が「銀賞」を受賞するなど、強豪がしのぎを削る大舞台で、堂々たる勇気と希望の音律を響かせました。
 
ハンコック 素晴らしいですね!
 
ショーター 音楽隊・鼓笛隊といえば、私たちを育ててくれたドラマーのアート・ブレイキーを思い出します。
私は一九六一年に「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」という彼のバンドの一員として日本を訪れました。ブレイキーも私も初めての訪日で、それ以来、ブレイキーはすっかり日本の人々が好きになりました。一九六五年に再度、訪日した時には、私は既にブレイキーのバンドを離れていましたが、彼が創価の音楽隊・鼓笛隊に演奏技術を教える機会があったと聞いています。
 
池田 不思議なご縁です。アート・ブレイキーさんは、日本に一大ジャズブームを起こした名奏者の一人ですね。
この年(一九六五年)、ブレイキーさんたちは、創立して一年余りの民主音楽協会民音)の招聘に応え、東京と熊本で公演してくれました。当時の関係者によると、大変な人気で、前売りには三倍以上もの申し込みがあったそうです。
私が民音を創立した時、周囲は、なかなか理解できなかった。反対の声もありました。いまだかつてない、民衆の音楽運動でしたから、まさに「建設は死闘」でした。その無名の民音の草創期に、快く力を貸してくださったブレイキーさんたちの御恩は、決して忘れておりません。 
お陰さまで、民音は今、百三カ国・地域へ海外交流を広げ、日本国内での公演の鑑賞者も、累計で一億一千万人を突破するに至りました。
ショーターさん、ハンコックさんにも、重ねて御礼を申し上げます。
 
ショーター こちらこそ感謝いたします。アート・ブレイキーは、ジャズ音楽の存続が極めて重要であり、私たちには伝えるべきメッセージ(使命)があると、痛感しておりました。
 
池田 バンド名の「メッセンジャーズ」には、「使命を伝える人」との意義が感じられますね。
 
ショーター ですから、海外巡業で飛行機に乗っていて、機体が激しく揺れたりすると、ブレイキーは、よく言ったものです。「諸君、心配することはないぞ。われわれには使命があるんだ!」(笑い)。
 
ハンコック ブレイキーらしいですね。彼をはじめ、真の意味で息が長く、亡くなった後も伝説的な存在と輝く音楽家たちは、皆、逆境を乗り越えて何度も蘇った人たちです。ブレイキーの音楽隊・鼓笛隊へのレッスンは、どのような経緯で実現したのですか?
 
池田 それは、鼓笛隊のメンバーが、直接、「演奏の仕方を教えてください」と願い出たのです。東京での公演の直後、代表が楽屋を訪問したようです。いきなり、ぶしつけだったかもしれません(笑い)。しかし、ブレイキーさんは、彼女たちのまっすぐな向上への情熱を、大きく深く受けとめてくださったのです。
実は、鼓笛隊の結成(一九五六年)当初から、私はよく「一流から教わるんだよ」と激励をしていました。それは、戸田先生の教えでもありました。
一流のものに触れることは、自分が一流になる第一歩です。より高きものに学ぶ心が、飛躍への鍵となります。
私が、世界の一流の識者との会談に、青年を同席させてきたのも、その意味からです。当然、礼儀やマナーをわきまえた上で、青年は一流の世界に積極果敢にぶつかっていくことです。「教えてください」「学ばせてください」――この求道の姿勢が、人生を開くからです。
 
ショーター ブレイキーの人柄を考えれば、鼓笛隊の乙女たちに会った時、知らんぷりをすることなど、とてもできなかったのでしょう。彼は思ったに違いありません。「この乙女たちはどう育っていくのだろう」「将来、どんな立派な人生を送ることだろう」と。
 
ハンコック ブレイキーは、いつも若い音楽家に、チャンスを与えようとしていました。いつもながら演奏でよしとしているミュージシャンではなく、特に、向上心ある若手ミュージシャンに対しては、必ずしも彼と一緒に演奏しているメンバーでなくとも、彼はとりわけ熱心でした。
探究心のある若手を、常に育成しようとしていたのです。ですから彼は、鼓笛隊メンバーの熱心さに、心打たれたのでしょう。
 
池田 一流の人格には、「学ぶ心」とともに「育てる心」が光っているものです。  ブレイキーさんは、無名の音楽家を一流に育てる名人だった。ゆえに彼のバンドは「大学」と謳われましたね。 青年を励ます人には、自らも青年の生命が脈打ちます。青年を大切にする団体にこそ、未来が開かれます。  戸田先生は言われました。  「論語に『後生畏るべし』という言葉がある。君たちは『後生』だから、先生である私より偉くなれ」 青年には、自分以上の使命があると信じてくださったのです。
 
ショーター ブレイキーも、語っておりました。「われわれにはリーダーが必要なのだ。君たちは皆、やがて僕のバンドを去る時、リーダーになっていなければならない」と。 
 
池田 ブレイキーさんは、特別レッスンをすぐ行ってくれました。鼓笛隊の依頼から八日後。民音主催の「音楽教室」として実現したのです(一月二十六日、港区の虎ノ門ホール)。 公演でお疲れであったにもかかわらず、音楽隊・鼓笛隊の熱心な姿に感激され、全身から汗を噴き出しながら、ドラムの打ち方、シンバルの鳴らし方、マラカスの振り方等々、一つ一つ教えてくださったのです。
 
ショーター ブレイキーは、鼓笛隊や音楽隊が創価学会の団体であることは知らなかったと思いますが、青年の情熱に応えようと、そのように情熱的に対応していたのだと思います。 
 
池田 ありがたいことです。当時、七百人ほどの参加者の中には、氏がどれほど著名であるかを、よく知らないメンバーもいたかもしれません。 しかし、情熱的な指導に圧倒され、皆、夢中でレッスンについていきました。「会場全体が、一つの心臓になったように鼓動した」と振り返る友もおります。  なかんずく、参加者の胸に刻まれたのは、「形式や、型で打つのではない。心で打つのだ!」という魂のアドバイスでした。 
 
ハンコック ブレイキーは、技巧に走らないことで有名でした。  彼の演奏には、基本的な要素が幾つも備わっています。それは、単純な要素ともいえます。しかし、聴衆は、彼の演奏に飽きることがありません。その演奏は、人々の気分を高揚させるのです。 まさに「心」で打ち、「心」を打っていました。  
 
池田 「みんな一日のつらい仕事を終えて音楽を聴きにやってくる」「そういう人々を幸せな気分にするのが、私の仕事だ」――このブレイキーさんの心意気は、ショーターさんとハンコックさんにも、受け継がれていますね。
 
名ドラマーが音楽隊・鼓笛隊に「心で打て! 心が心を打つのだ」
音楽の師が若きハンコック氏に「自分の誠実と真剣さを信じろ」  
 
ショーター ありがとうございます。ブレイキーの演奏こそ、人々を元気づけるものでした。最初に日本を訪問した時、私たちが頻繁に耳にしたのは、「オリジナリティー(独創性)とはどういうものですか」「モダンジャズとはどんなものですか」という質問でした。ブレイキーはいつも、「心で演奏することだ」と答えていました。 「ジャズの演奏は、クリニカル(分析的・客観的)に考えたり、アカデミック(学問的)に考えてはいけない。クリニカルに演奏するな! 分析や客観にはストーリー(物語)がない。君の心をさらけ出すのだ! 君の心にあるのは何だ? それを吐き出すのだ!」「ステージでは聴衆をごまかすな。楽器の陰に隠れるな。トランペットの陰に隠れるな!」――ブレイキーのこの言葉は、音楽だけでなく、人生万般に通じる言葉だと思います。 
 
ハンコック 「心で演奏する」――私も若いころ、マイルス・デイビスから、この点を鍛えられました。  マイルスは「拍手ばかり求めて演奏するやつは、バンドから解雇するぞ」と言うのです。「技巧をひけらかす演奏や、聴衆を幻惑するような演奏はするな。聴衆におもねるな。聴衆の人質になるな。拍手喝采だけを求めるのは、卑怯な演奏である。自らを恃む強さを持て。それがあれば、自分を内面から支える芯ができるのだ」――これが、私がマイルスのバンドで受けた訓練でした。自分の演奏への確信を持つこと。それが演奏への正しい取り組みです。しかし、彼が最も強く求めたものは、誠実さと真剣さでした。