【第5回】 学ぶ心 育てる心 ㊦ 2010-11-13

池田 まさしく、「一流」に共通する「一念」の構えが、ここにあります。  「心こそ大切なれ」(御書1192ページ)。これは、仏法の一つの重大な結論です。 この一節は、日蓮大聖人が、試練と戦う弟子の四条金吾に贈られました。  金吾は、武術に優れ、医術の心得も深かった。重々そのことを御存知の上で、この御文の前の部分では、兵法を極め、知略を尽くした武将であっても、最後は敗れた歴史の事例が挙げられております。 いかなる道であれ、実力も、技術も、知識も、戦略も、もちろん大切である。人に倍する努力も大事だ。しかし、より一重深く、人生の幸不幸を決定するのは、心です。相手を生命の奥底から感動させ、揺り動かすのも、心です。勝負を決しゆく究極の力は、心なのです。   この心というものを、いかに正し、律していくか。いかに磨き、賢くしていくか。いかに高め、強くしていくか。そのためには、わが心を、偉大な法則に融合させ、偉大な師匠に合致させゆく努力が、絶対に不可欠なのです。 
 
ハンコック 本当に、そうですね。仏法の実践でも、音楽の練習でも、「心こそ大切なれ」はキーワードです。  音楽の練習ではまず「音階」(スケール)を練習し、旋律の「進行」(モーション)へと進みます。問題は、どこへ向かうかです。また、練習は何のためにするのか、その根底が大切です。 単に自分が偉くなるとか、栄誉を勝ち取るためではありません。それはひとえに、自分にできることを他の人たちと共有し、他の人たちに尽くすためなのです。それができるのは、わが心のチャンネル(回路)を閉ざさずに、開放する時だと、私は信じています。 
 
池田 信心も同じ道理です。よき師、よき同志と共に進もう。よき友情を築こう。共に勝利の人生を歩もう。この「異体同心」の前進の中にこそ、限りなき自他共の歓喜の成長がある。 ブレイキーさんの「音楽教室」でも、最後に美しきドラマが生まれました。音楽隊・鼓笛隊の参加者全員が、ブレイキーさんに心からの感謝を込めて、合唱を捧げたのです。すると、ブレイキーさんは、肩をふるわせ、感泣されたと伺いました。 巨匠と青年の「心」と「心」が、深く強く共鳴し合った瞬間でした。
 
ショーター その通りです。その時、ブレイキーは、「日本の本当の姿を見た。日本は、僕の故郷だ」と言ったそうです。なぜ彼がそう言ったのか、私にもよく理解できます。ブレイキーはおそらく、どんな国へ行っても、私たちに同じことを教えたはずです。「君たちにとって、この国は外国ではない。君たちの故郷なのだよ」――そう彼は教え諭していたのです。 
 
池田 音楽は、世界市民の共通語です。国境の壁を軽々と飛び越え、皆の心を一つの家族に結び合わせます。文化交流、芸術交流の素晴らしさです。 二十一世紀のグローバル化は、物理的な距離の消滅から、さらに心の距離の消滅へと進んでいかねばなりません。五十年前に世界への平和旅を開始して以来、私は国や民族、イデオロギーを超え、心を結ぶ対話の行動を続けてきました。 SGI発足の際は、芳名録の国籍の欄に「世界」と記しました。仏法は、国家の枠を超えた普遍的な人間主義の宗教だからです。だからこそ、多彩な文化や習慣を尊重し、互いに学び合うことを心がけてきました。 
 
ショーター 半世紀にわたり、世界を結び、人材を育ててくださった池田先生の大闘争に、感謝申し上げます。  弟子の成長を祈り、喜んでくださる師匠ほど、有り難いものはありません。 一九六三年のことでした。リハーサルの最中に、突然、電話が鳴りました。ブレイキーはドラムを叩いていました。トランペット奏者のリー・モーガンが電話に出て、大声で私に言いました。 「ウェイン、マイルスからだぞ!」  電話に出ると、マイルス・デイビスが、私に彼のバンドに入るよう申し入れてきたのです。私がマイルスとの話を終えると、ブレイキーは、「彼は、サックス奏者を、僕のバンドから横取りしようとしている!」と叫びました(笑い)。 でも、ブレイキーは陰では、あの偉大なマイルスが電話をかけてきたことを誇りに思っていました。というのは、いったん、マイルス・デイビスのバンドに入れば、音楽と人生の使命を果たせる指導者のレベルまで進級することは必然であることを、ブレイキーは知っていたからです。 
 
ハンコック ジャズのハートは、商業的な価値ではありません。人間の心臓に酸素がなくてはならないように、ジャズに重要なのは使命感です。 ブレイキーは、ジャズ音楽の存続がいかに重要であるか、その使命を痛感していたのです。  
 
池田 まさに、偉大な「メッセンジャー(使命を伝える人)」の人生でしたね。  日本語の「使命」は「命を使う」と書きます。かけがえのない命を使い、果たしていくのが「使命」です。 私は、草創期の高等部に、「使命を自覚するとき、才能の芽は、急速に伸びる」との指針を贈りました。  尊き使命を果たすために、学び、祈り、戦い続ける春夏秋冬の中で、わが生命それ自体が輝きを増す。妙なる楽器のように、平和と幸福の調べを奏でていける。お二人は、その至高の手本です。 四十五年前、ブレイキーさんから、「心で打つ」という音楽の極意を学んだ音楽隊・鼓笛隊の使命の友も、今や円熟の壮年・婦人のリーダーとなり、多くの青年を励まし、育ててくれています。 仏法には、「月月・日日につよ(強)り給へ・すこしもたゆ(撓)む心あらば魔たよりをうべし」(同1190ページ)と説かれます。昨日より今日、今日より明日へ! 勇気の音律を轟かせながら、新たな開拓に挑みたい。 そこにこそ、「人間革命」の偉大なる光で、次の世代を照らしていく太陽が昇るからです。