小説「新・人間革命」 共戦 58 2012年 1月23日

山本伸一の乗った車は、徳山から山口文化会館へ向かった。三、四十分したころ、同乗していた妻の峯子が言った。
防府の人たちが、会館に集まっていらっしゃるそうですよ」
峯子は、中国婦人部長の柴野満枝から、そう聞いていたのである。
車を運転してくれている人の話では、防府会館は、ここから数分であるという。
「行こう! 短時間でも、全力で励まそう。みんな待ってくれているんだもの……」
防府会館にいた人たちは、『山本先生に、防府にも来ていただきたい』との思いで、集て来た人たちであった。
しかし、午後八時半を回ったことから、帰途に就こうとしていたのである。その時、乗用車が止まった。
「こんばんは!」
玄関に、伸一の笑顔があった。その後ろには、峯子の姿もある。歓声があがった。
小さな木造の会館である。会館に入ると、伸一は尋ねた。
「勤行しても、周囲に声は漏れませんか」
「雨戸を閉めれば大丈夫です」
「雨戸を閉めて、短時間、小声でいいから、勤行をしましょう。皆さんのご健康とご長寿、ご一家の繁栄を祈念したいんです」
勤行を終えると、伸一は、部屋に置かれていた電子オルガンに向かった。
彼は、「私の、せめてもの皆さんへのプレゼントです」と言うと、音量を絞って、「厚田村」や「熱原の三烈士」など、次々と演奏していった。
「皆さんは、ずっと待っていてくださったんでしょ。その『真心』に応えたいんです。
世間は『打算』ですが、信心の世界、学会の世界は『真心』なんです。
広宣流布をめざして、師匠と弟子の、同志と同志の、心と心がつながってできているのが、創価学会です。
だから、学会は、組織主義ではなく、人間主義の団体なんです。
そこに学会の強さがある。その清らかな精神の世界を守るために、私は戦っているんです」