小説「新・人間革命」人材城 50 2012年6月7日

山本伸一は、乃木辰志の母親の近況について尋ねた。
「母は、東京に住んでおりますが、たまたま今日は、私のところに来ております」
「せっかくだからお会いしたいね。明日の昼、熊本文化会館に来ていただけるだろうか」
「はい。大丈夫です」
熊本に到着してからの伸一の行動を見てきた、県長の柳節夫は思った。
『先生は、一人ひとりの話に耳を傾け、真剣勝負で激励され続けてきた。懸命に、人材を見つけ、育てようとされているんだ。この励ましこそ、創価学会の生命線なんだ。
私は、同志への地道な激励、指導とは、かけ離れたどこかに、広宣流布の大闘争があるように思っていた。
しかし、それは違う。先生が、熊本で示してくださっていることは、ただただ、眼前の一人に、全力を、魂魄を、熱誠を注いで、励ますことだった。
その一人が希望に燃え、勇気をもって立ち上がることから、一家和楽も、地域広布も、世界平和も可能となる。広宣流布の直道は、一対一の対話、励ましにこそあるんだ!』
学生部員との語らいを終えた山本伸一は、熊本市内を視察して、午後八時半に熊本文化会館に到着した。
それから、休む間もなく、代表幹部と共に勤行し、さらに、県の今後の課題などについて語り合った。
伸一は言った。
熊本県創価学会には、今の何倍も、何十倍も、多彩な人材が必要だ。人材というと、表に立って指揮を執る人のように考えてしまいがちだが、裏で黙々と頑張る人も大切なんです。
いや、そうした人を、見つけ、育てなければ、難攻不落の創価城は築けません。
熊本城もそうだが、堅牢な城の石垣は、表の大きな石の裏側に、『裏込』といって、砕いた小石が、たくさん組み込まれているんです。
この『裏込』が、石垣内部の排水を円滑にし、大雨から石垣を守る。表から見えないが、その役割は重要なんです」