小説「新・人間革命」 人材城49  2012年 6月6日

乃木辰志の母親は、辰志と共に、熊本大学の学生部員らが集っているという下宿を訪ねた。
そこで、辰志を学生部のメンバーに紹介し、「くれぐれも息子をよろしくお願いします」
と頼み込んだのである。
やがて乃木は、母親が語っていた仏法の「生命の哲学」に興味をもつようになり、山本伸一の著作なども読み始めた。
伸一の著作を読んでいくうちに、仏法で説く生命論の深さに感嘆するとともに、医師としての、人間革命、境涯革命の重要性を痛感していった。
また、学会には、確固たる人生
哲学があり、人間性豊かな触れ合いがあり、学会の組織は、人格形成の鍛錬の場であることを感じた。
夏休みが明けたころには、乃木は、創価学会のなかで、積極的に自らを磨いていこうとの決意を固めていた。
学会の先輩に勤行を教えてもらい、会合にも参加するようになった。
弘教にも挑戦した。人の幸せを願って、真剣に対話している自分を感じた。
ある時、東京で、高校時代のクラス会が開かれた。その時、旧友の一人が言った。
「おまえ、変わったな。今まで、自分のテストの点数しか考えない、エゴイストだと思っていたんだよ。
そのおまえが医者になったら、どうなってしまうのか、実のところ、心配だった。
でも、今日、話してみて、今のおまえなら心配いらないと思ったよ」
日蓮仏法は、自他共の幸福を願う、自行化他の仏法である。広宣流布という菩薩道に生きる信仰である。
乃木は、学会活動を通して、それを実践していくなかで、気づかぬうちに自らの人格を磨き、人間革命の大道を歩み始めていたのだ。
友人の話で、それを知ったの驚きは大きかった。
後年、ヨーロッパ科学芸術アカデミー会長となるフェリックス・ウンガー博士は、医師について伸一に、「私のいう『医師』とは、人間性豊かな医者です。
全体観に立った人格の光る医師です」(注)と語っている。
人格の光彩こそ、医師の必須条件であろう。