小説「新・人間革命」人材城 55 2012年6月14日

午後二時前、熊本文化会館の大広間に姿を現した山本伸一は、「さあ、皆で万歳を三唱し
ましょう」と提案した。
 喜びに満ちあふれた参加者の「万歳!」の声が、雷鳴のように轟いた。
 伸一は、皆に視線を注ぎながら言った。
 「今日の私の話は、簡単なんです。
 まず、『勤行はきちんとしましょう』ということです。それが、信心の基本ですから。
 そして、太平洋のような大きな心で信心に励んでください。信心していても、いやな人
と出会うこともあれば、大変なこと、辛いことも、たくさんあるでしょう。しかし、そん
なことに一喜一憂するのではなく、大きな心で生きていくんです。仏の使いですもの。
 悩みは、誰にでもあります。それに心を奪われて、希望をなくし、歓喜をなくしてしま
ってはなりません。
 怒濤をも包み込む大海の境涯で、悠々と、また堂々と、広宣流布という人類史の大ドラ
マを演じていこうではありませんか!」
 それから彼は、ピアノに向かい、「荒城の月」「厚田村」などを、次々と演奏していった。
さらに、小さな子どもたちがいることから、「春が来た」や「夕焼小焼」などの童謡も弾い
た。
 「では、これから勤行をしましょう」
 朗々たる伸一の読経が響き、皆の声が一つになった。
 伸一は祈った。ひたぶるに祈った。
 ?立ち上がれ! わが師子よ!
 君も、君も、あなたも、あなたも……新しい戦いの幕を開くのだ。困難を恐れるな! 波
浪に屈するな! 私と共に、力の限り、生命の限り、広宣流布の使命に生きよう。そこに
人生の勝利と幸福の大道があるからだ?
 伸一は、出発時刻ぎりぎりまで、熊本の同志を励ました。出会いを紡ぎ、心を結び、魂
を注ぎ込んだ。
 彼は、愛する同志のために、一身を投げ出す覚悟で激励行を続けたのである。
           (第二十五巻終了)