小説「新・人間革命」人材城 54 2012年6月13日

勤行会のあと、山本伸一は、急いで仕事に取りかかった。どこにいても、さまざまな報告の書類や、会長として決裁しなければならない事項が山積していた。
執務の合間を縫うように、慌ただしく食事をし、また、執務を始めた。
しばらくすると、同行の幹部から、「先生にお会いしたいと、さらに、多くの皆さんが詰めかけております」との報告があった。
「わかりました。出発前に、また、勤行会をしましょう」
午後一時半過ぎ、伸一は、熊本文化会館のロビーに顔を出した。そこで、前日、約束していた乃木辰志の母親に会った。母親は、清楚で小柄な婦人であった。
「昨日、息子さんから、お母さんのことを伺いました。子どもさんは、全部で何人いらっしゃるんですか」
「はい。辰志の下に弟がおります。弟も歯医者をめざして、大学の歯学部で学んでおります」
「そうですか。二人の子どもさんを、広布後継の立派な医師に育ててください。
ところで、ご主人のお仕事は、うまくいってますか」
「不景気ですので、必ずしもうまくいってはおりません」
「そういう時こそ、ご主人に、優しく接していくことが大事ですよ。『信心していないから行き詰まるのよ』などと言って、追い込むようなことをしてはいけません。
ご主人も心の底では、『信心するしかないかな』と思っているんです。でも、格好がつかないんです。
その心をよく理解して、聡明に、ご主人を応援し、一家の幸せを築いていくんです」
妻が夫の入会を真剣に願うのは、一家の幸福を願う心の、自然の発露であろう。
しかし、信仰をめぐって争い、仲たがいすることは愚かである。
夫に幸せになってほしいという原点に立ち返ることだ。その愛情と思いやりに富んだ言葉、行為をもって、夫を包んでいくのだ。そこに仏法がある。