小説「新・人間革命」厚田 59  2012年8月23日

山本伸一は、さらに、戸田城聖が姪に送った別の手紙を紹介した。
「『私は仏教を信じている。仏教の極意は仏の道を行ずる事だ。
仏には怨みや怒りやそねみはない。人を助ける事が仏の道だ。だからお前も上京したら仏道を行じて、仏を信じてもらいたい』
戸田先生のお手紙は、自然に仏法対話になり、指導になっております。
仏法を持った私どもの信念、言動は、本来、『人を助ける事』に貫かれていなければならない。信心即生活です。
日々の生き方、生活それ自体が、仏法を表現し、弘教につながってこそ、真の仏法者といえます。
また、先生は、このお手紙では、『仏には怨みや怒りやそねみはない』と言われながら、先ほど紹介したお手紙には、『敵味方を峻別せよ』とある。実は、ここに、重大な意義があります。
『敵・味方』とは、悪か善かということです。その峻別ができなければ、姪御さんの幸せも、また、私どもの信仰も攪乱され、現実において敗北してしまいます。
大聖人は『悪知識と申すは甘くかたらひ詐り媚び言を巧にして愚癡の人の心を取って善心を破る』(御書七p)といわれている。
悪知識というのは、仏道修行を妨げ、幸福への道を誤らせる悪徳の者であり、悪友です。
この悪知識という敵は、甘く語らい、嘘をつき、媚びて、言葉巧みに近づき、心を許すように仕向け、退転させていくんです。
ゆえに、悪を悪と見破り、戦うことが大事なんです。悪と戦わぬ善はありません。
悪を打ち破ることが、慈悲にもなるんです」
──「悪人の敵になり得る勇者でなければ善人の友とはなり得ぬ」とは、初代会長・牧口常三郎の珠玉の指導である。
東京に戻る十月九日の午後、伸一は、戸田講堂での北海道幹部会に出席した。
参加者は、広宣流布の前線基地を担うリーダーである大ブロック長、大ブロック担当員(現在の地区部長、地区婦人部長)の代表であった。