小説「新・人間革命」 2013年 1月5日 法旗 27

愛媛県最高協議会での山本伸一の指導は、極めて具体的であった。
 それは、一見、細かいことのように思えたかもしれないが、抽象的な話では、真意が伝わらないことが多いからだ。
 指導は具体的であることが大切である。
 協議会のあと、伸一は、愛媛文化会館の二階ロビーで、今治市にある日蓮正宗寺院の住職と面談した。
 彼は、最愛の学会員を大事にしてくれるよう、心からお願いした。
 引き続き、大広間で、役員、職員らと勤行し、懇談会をもった。また、県青年部長と県男子部長の家族とも会った。
 県青年部長は酒田法夫、県男子部長は木林周作という青年で、二人とも本部職員である。
 酒田には八歳と六歳と四歳の娘が、木林には生後六カ月の男の子がいた。
 伸一は、彼らの夫人に言った。
 「職員の精神は、会員への奉仕なんです。ご主人は、私と共に、会員を守り、広宣流布に生き抜こうと決意されている。
 何かと、大変なこともあるでしょうが、しっかりとご主人を支えてあげてください」
 さらに、子どもたちに語りかけた。
 「君たちのお父さんは、みんなの幸せのために頑張っている、偉い人なんです。君たちも、お父さんのような人になろうね。しっかり勉強するんだよ。
 今日は、皆さんのために、ピアノを弾きます」
 伸一は、「荒城の月」や「さくら」などを弾いていった。
 途中で、木林の六カ月になる子どもが泣き始めた。
 母親が申し訳なさそうに、子どもを抱いて、廊下へ出ていった。
 演奏を終えた伸一は、館内を点検しながら、四国長の久米川誠太郎に語った。
 「最高幹部は、幹部として頑張ってくださっている方のご家族を、徹して励ましていくんです。
 将来、子どもが、『うちのパパは、なぜいつも家にいないの?』と疑問をもつこともあるかもしれない。
 しかし、私が語ったことを思い出せば、父親を誇りに感じるでしょうし、自分も頑張ろうと思うでしょう」