小説「新・人間革命」 奮迅 9 2013年5月14日

いよいよ会長・山本伸一の話である。
 彼は、冒頭、支部歌を合唱したメンバーに視線を注ぎながら言った。
 「私がつけている胸章を、合唱団の方に差し上げたいと思います」
 会場を揺るがさんばかりの大拍手が響いた。伸一の側にいた幹部が、その胸章を手に合唱団のところへ向かった。
 拍手が収まると、彼は、「今日は、一切、拍手はなしで結構です」と述べ、方南支部の結成を祝福した。
 「千里の道も一歩から始まり、大海の水も一滴から始まります。本日の、この支部結成大会も、広宣流布の新しい一歩を印すものであると、私は強く確信いたしております。
 皆さんの一生成仏をめざしての功徳あふれる前進が頼もしく、十年後の姿が、まことに楽しみであります」
 次いで支部組織の意義に言及していった。
 「多くの団体に本部があるし、企業にも、本社や本店があり、それが中枢機能を担っています。
 そして、いわば、その出先機関として、支社、支店等がある。
 しかし、学会の支部は本部の出先機関ではなく、その地域のために、そこで信心に励む人たちのために、本部と同等の責任と使命を担っていると、私は考えております。
 組織体という観点では、全国的には学会本部が中心かもしれませんが、自覚のうえでは、支部は地域における学会本部であると決めて、各人が地域に仏法を打ち立て、展開していただきたいと思っております。
 賛成の方?」 「はい!」と、皆が手を挙げた。
 「ありがとうございます。でも、無理に、おつきあいで手を挙げる必要はありません」
 笑いが広がった。
 「しかし、じっとしていると、肩が凝ってしまうので、体のためには、たまには手を挙げることもいいんです」
 笑いが弾けた。伸一は、ともすれば緊張しがちな皆の心を、少しでも和ませたかった。小さな配慮が、大きな前進の潤滑油となる。