小説「新・人間革命」 奮迅 14 2013年5月20日

「中途半端にことを運べば常に失敗する」(注)──これは、山本伸一が青年時代から肝に銘じていたナポレオンの箴言である。
 伸一は、「支部制」を導入したからには、それが本格的に作動し、見事な成果をもたらすまでは、決して手を抜いてはならないと、深く心に決めていた。
 彼は、東京・杉並区の方南支部結成大会に出席したのに続いて、一月三十日には、立川文化会館で行われた第二東京支部長会に臨んだ。
 これは任命式となる集いで、第二東京の全支部長・婦人部長、青年部の男女部長となる人たちが参加していた。
 彼は、支部幹部の出発に際して、リーダーの在り方などについて、語っておこうと思っていた。
 伸一は、「教学」と「信心」についての話から始めた。
 この前日、彼は立川市内の任用試験会場に、受験者の激励に訪れていた。陰で試験を支えている役員をねぎらったあと、受験者を見守るように、そっと各教室を回った。
 ある青年は、答えに窮して、鉛筆の手を止め、顔を上げた。すると、そこに、微笑む伸一の顔があった。
 伸一は、?大丈夫、大丈夫?と言うように静かに頷き、青年の肩をポンと叩いた。
 青年は、奮起したのか、再び勢い込んで、答案用紙に鉛筆を走らせていた。
 伸一は、試験会場の廊下では、本部幹部だという壮年と言葉を交わした。壮年は語った。
 「私が勉強を教えた人たちも、今回、任用試験を受けています。年末年始も返上し、一緒に勉強してきただけに、合格できるのかと思うと、じっとしていられない心境です」
 それから壮年は、意を決したような表情を浮かべ、こう報告した。
 「先生! 私は、十五日に行われた上級試験を受験したんですが、不合格になってしまいました。不甲斐ない限りです」
 「いいではないですか! 試験は、まだこれからもあるんですから」