【第14回】 いつも本とともに  (2013.6.1)

書で新たな自分を発見!
 
ロシアの文豪 チェーホフ
書物の新しいページを一ページ、一ページ読むごとに、わたしはより豊かに、よりつよく、より高くなっていく
 
 
 ──6月は衣替えを行う学校も多く、未来部のメンバーは新たな気持ちで前進しています。
 
名誉会長 梅雨の時期だし、みんな体調に気をつけてね。
 衣替えの季節は、古来、着る服を見直すとともに、生活全般を見直してきました。その意味で心替えの意義があるといいます。
 仏法では、「月月・日日につよ(強)り給へ」(御書1190㌻)と仰せです。
 私たちの信心は、水が流れるように、春夏秋冬たゆまずに、いよいよ強く、前へ前へと進んでいく心です。
 
 ──雨ふりが多くて、イヤだなと思うこともありますが……。
 
名誉会長 そうだね。でも、大地から伸びゆく草木にとっては、恵みの雨にもなります。
 雨に洗われたアジサイやザクロなどの花も美しいし、雨の晴れ間に吹くそよ風も、すがすがしい。心ひとつで、楽しく賢くリフレッシュできます。
 
 ──アジサイは、開花していく中で多彩に色が変わることから、「七変化」とも呼ばれます。
 
名誉会長 私も折々に写真に収めてきました。
 アジサイの七変化は、土壌から吸収する成分の違いなどによって起こるようだ。
 さまざまな滋養を吸収して、みずみずしく成長して、見る人を驚かせ喜ばせる──未来部の皆さんの生命とも、響き合う花です。
 みんなは、心の栄養を存分に吸収しながら、自分らしい使命の花を咲かせ、多くの友にも笑顔の花を咲かせていける人になってもらいたいね。
      
 ──青春時代の心の栄養は、やはり読書で得られるものが多いと思います。メンバーから寄せられる質問にも、読書に関するものが多数あります。
 
名誉会長 大事だ。読書は、青春勝利の飛躍台であり、人生の全ての土台です。知識を蓄え、知恵を湧かせる泉です。自分の世界を大きく広げ、心を豊かにし、頭脳を鍛える道場です。
 本は世界旅行の切符です。地球のどこにだって、瞬時に飛んでいける。アジア、ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカオセアニアの世界五大州、北極や南極、そして宇宙までも、冒険できる。
 また本は、ポケットに入る不思議なタイムマシンです。群雄割拠の三国志の時代やジャンヌ・ダルクの活躍の舞台へも行ける。未来社会を生きることもできる。
 さらに本は偉人との対話の広場です。ゲーテトルストイと友人になれる。ナイチンゲールキュリー夫人があなたの味方になる。ガンジーやキング博士が君の背中を押してくれる。
 時間や空間を超越し、未知の次元の世界を知ることができる。旅行の荷造りはいらないし(笑い)、お金がなくても大丈夫(爆笑)。
 いつでも、どこでも、本さえあれば、目の前にパッと新しい世界が広がる。こんなに便利な宝が、皆さんの手の届くところにある。
 
 ──読書が苦手なメンバーもいます。「親から『本を読みなさい』と言われるのですが、すぐに飽きてしまいます」と……。
 
名誉会長 苦手に挑戦していることが偉いじゃないか。それでいいんだ。いつか必ず、楽しく読めるようになるよ。
 途中でやめてもいい。読もうと思っだけど、気持ちが変わって読まずに積んでおいてもかまわない。これを積ん読と言うんだよ(笑い)。
 別の本が読みたくなったら、それを読めばいい。何年かたってからの方が、すっと読める場合もある。本との出合いも、つきあい方も、人それぞれです。堅苦しく考える必要はないんです。
 大切なのは、少しでも本に触れる習慣をつけることです。
 まだ読んでいないけれど、「読みたい本」がたくさんあるというのは、読んだのと同じくらい大切です。だから、図書館や本屋さんへ行って、手に取るだけでも、新聞やインターネットの本のページを見るだけでもいい。友達と本を話題にするのもいいね。「読んでいた本、面白かった?」と。
 本を目にしたり、本に触れたり、本の話を聞いたりすれば、興味が湧いてくる。読みたいと思える本にも、きっと出合えます。
 そして、いい本を読んだ人は、確実に向上していきます。
      
 ──受験勉強を優先させねばならなかったり、部活で疲れてしまったり、いろんな事情でなかなか本が読めない場合もあります。
 
名誉会長 読みたい本を増やして、一生かけて読んでいけばいい。本を読んだ分、何倍もの人生を生きられます。
 読むことは生きることであり、生きることは読むことなのです。
 今回は、私が青春時代に戸田先生と学んだ、ロシアの文豪チェーホフの言葉を贈りたい。
 「書物の新しいページを一ページ、一ページ読むごとに、わたしはより豊かに、よりつよく、より高くなっていく!」
 
 ──チェーホフは、ロシアを代表する作家で、『桜の園』 『かもめ』などの戯曲が有名です。青春時代は、家が破産し、一家を支えるために、大学に通いながら雑誌に寄稿を続けた苦労人でしたね。
 
名誉会長 その通りです。チェーホフは小さいころから、父が営む食料雑貨店を手伝いました。休みはなく、思うように勉強できず、たびたび病気にもかかっています。父の雑貨店が破産してからは、学びながら家庭教師として働いた。当時、16歳です。
 しかし、かけがえのない楽しみがあった。新しくできた図書館に通い、読書にふけることです。食事を取るのも忘れるほど、胸を高鳴らせて、ユゴーショーペンハウアーらの作品を読んでいったのです。苦難の中で読書を重ねたことで、心は大きく、強くなり、学力もついた。やがて、世界中を魅了する作品を、次々と生み出す作家になれたのです。
 
 ──池田先生も、青春時代、逆境の中で読書を重ねられました。
 
名誉会長 第2次世界大戦が終わったのは、私が17歳の時です。
 価値観が崩壊した時代でした。青年は皆、「正しい人生とは何か」「真の幸福とは何か」を探し求めていました。私も、その答えを求め、名著をむさぼり読んだ。病弱な体で働きながら、少しずつお金をため、古本屋へ飛んでいった。欲しかった本を買えた時のうれしさは、今も忘れられません。
 戸田先生の経営する会社で働き始めてからも、読書をやり抜いた。恩師の事業の苦境を一身で支えながら、日々、書物と格闘していった。疲れ果てて帰宅しても、必ず本を開きました。
 戸田先生は、私の顔を見るたび、「今、何を読んでいるか」と聞かれました。「あの本は読んだか」「この本はどうだ」と、内容や感想も鋭く尋ねられました。一つ一つが大切な訓練でした。あの日々があったからこそ、読書の真髄を知り、本当の力を養うことができたんです。
 牧口先生と戸田先生は、日本の軍国主義に反対し、投獄されました。
牢の中の環境は劣悪です。その牢獄でも、お二人は読書をやめなかったのです。牧口先生はこ高齢の身でありながら、向学の炎を燃やし続け、獄死の直前までカントの哲学を学ばれました。戸田先生も、多くの本の差し入れを頼まれています。
 どこでも学べる。みんなには、思いっきり勉強してもらいたい。読書にも、心ゆくまで励んでもらいたいんです。
 
 ──「忙しくて、なかなか本を読む時間がとれません」というメンバーもいます。
 
名誉会長 確かに、今の中高生は忙しいね。だけど、時間があれば読書ができるとも限りません。むしろ、読書家の多くは、多忙な人が多い。私が語り合ってきた世界の指導者や識者も、皆、激務の合間を縫って書物を読んでおられました。
 忙しいなら、「ほんのちょっと」の時間を、有効に活用していくことです。電車での移動中、朝の10分、待ち時間の5分……。
 私は墓地に行って読んだこともある。静かでいいんだよ(爆笑)。
 ともかく、「本を読もう」という小さな積み重ねが、やがて大きな財産になる。1ページでも、数行でもいいんだ。
 チェーホフの言う通り、そのたびに、君は強くなっている。あなたの心は豊かになる。
 カバンの中に、常に本を入れておくことも一つの方法だね。空いた時間は、パッと本を取り出す。そうすれば、時間もうまく活用できるようになります。
      
 ──読書のに関する質問も寄せられています。「どのような本を読めばいいでしょうか」「たくさんの本を読みたいけど、読むのが遅くて、なかなか進みません」等です。
 
名誉会長 読書に慣れてきたら、ぜひ、世界の名著に挑戦してほしい。私も戸田先生から、常に「長編を読め」「古典を読め」と言われました。時代を超えて読み継がれている名著には、やはり、くめども尽きない哲学や知恵が輝いています。必ず、みんなの人生に大きな力を与えてくれる。
 何を読めばいいか、担当の方々や学校の先生に聞いてみるのもいいでしょう。
 たとえ一冊でもいい。偉大な作品を深く読んだ人は、人類の英知を自分のものにし、大いなる希望を見いだすことができる。一生涯の友人を得たようなものです。
 
 ──今はインターネットや携帯などが日常的に使われ、総体として活字に触れる機会は、むしろ増えているといわれます。「文字や情報に触れる機会は多いから、無理して本を読まなくてもいい」という意見もあります。
 
名誉会長 もちろん、新しい情報に触れることも必要でしょう。
 しかし一番、大切なことは、「考える力」を養っていくことです。それは、「言葉にする力」と言ってよい。情報に翻弄されるのではなく、逆に情報を生かしながら、自分の気持ちや考えを、自分の言葉にして練り上げていくことです。
 戸田先生は常々、「青年よ、心に読書と思索の暇《いとま》をつくれ」と語っておられました。
 名著は人類の共通の財産です。それを心に刻んでおくことは、どんな人とも自在に語り合える力になります。
      
 ──以前、池田先生が、難局に立ち向かうゴルバチョフソ連大統領に、チェーホフの『桜の園』の一節を贈って励まされたことを思い出します。
 青年主人公の言葉で──「人類は、至高の真理、至高の幸福をめざして進む。そして、我はその先頭に立つ!」と。
 大統領も、「胸に染みる言葉です」と心から喜ばれていました。
 
名誉会長 皆さんは、一人ももれなく21世紀を担い立つリーダーです。
 本を読み、本と語らい、本と格闘し、本と友情を結んでいく──その努力を続けながら、思う存分、世界に羽ばたいていってください。いつも本とともに!
 
 『チェーホフの言葉』(佐藤清郎訳編、彌生書房刊)、アンリ・トロワイヤ著『チェーホフ伝』(村上香住子訳、中央公論社刊)を参照した。