若芽 43 2013年 12月11日

「児童の本川雅広に会いたい」と言って、風体のよくない、目の鋭い男が、学校に訪ねてきたこともあった。
応対に出た教員は、きっぱりと答えた。
「お父様の負債の件で、児童と会わせることはできません。本来、子どもとは関係のないことです。
また、児童の住所、連絡先等も教えられません。お引き取りください」
それでも、どこかで待ち伏せをして、尾行したりするのではないかと、心配でならなかった。
本川は、サッカークラブに入っていたため、下校時刻が遅くなることもあった。
そんな時は、教師が鷹の台駅まで、皆を引率していった。
駅などに、怪しい人物がいないことを確認して、電車に乗せた。
本川のことは、山本伸一も教師から報告を受けていた。
ある日の放課後、児童たちへのお土産の玩具を持って、小学校を訪れた。
彼は、下校していく児童に玩具を渡して見送りながら、教員の一人に言った。
「もし、本川君が残っているようなら、呼んできてください」
教員に連れられて本川がやって来た。
「君が本川君か。全部、聞いたよ。大変だね。
でも、いちばん苦しんでいるのは、お父さんだよ。
今は、「いやだな」「困ったな」と思うこともたくさんあるだろうが、将来、
それが自分の宝物になる時がきっとくるよ。
偉くなった人は、みんな苦労しているんだよ。
お父さんに代わって、お母さんや妹さんをしっかり守ってね」
伸一は、彼に、ロボットアニメの主人公の人形を贈った。
父親も、母親を通して、伸一がわが子を励ましてくれたことを聞いた。
「本当に申し訳ない」と思った。
倒産から半年後、父親は決断した。
「もう身を潜めて生きることはやめよう。家族と一緒に暮らそう。
債権者と会って、誠心誠意、話し合って、借金は、いつまでかかろうが、どんなに苦しかろうが、返済していこう。
人間として、子どもたちに胸を張れる生き方をするんだ!」