小説「新・人間革命」大道 10 2015年2月21日

午後三時、山本伸一は小豆島会館の開館十周年を祝う記念勤行会の会場に姿を
現した。場内は人で埋まっていた。参加者のうち百人ほどが、未入会の家族や友人たちであった。
伸一は、会場に入ると、最前列に座っていた、メガネをかけた老婦人に声をかけた。
「島の一粒種のおばあちゃん! お元気で嬉しい。十一年前の約束通りに来ましたよ」
「先生! ようこそ、おいでくださいました。お待ちしておりました。ずっと、ずっと、待っておりました」
伸一は、手にしていたカーネーションのレイを、彼女の首に掛けた。
老婦人は道畑ハナノといい、七十八歳になる。一九五三年(昭和二十八年)八月に、島で最初に誕生した学会員であった。
当時は、旧習も深く、学会のことを正しく理解してくれる人は誰もいなかった。
仏法対話に行って、水や塩を撒かれることは日常茶飯であった。道を歩けば、「南無妙法蓮華経が歩いている」と嘲られた。
しかし、彼女は屈しなかった。
「みんな何もわからないのに信心に反対する。悪口を言う。学会で教わった通りのことが起きている。この信心は本物だ!」
非難中傷が彼女の確信を強くしていった。
当初、彼女の所属は、杉並支部であった。
わからないことにぶつかると、組織の先輩に手紙を書いて質問した。
月に四通のペースであった。送られてくる答えや励ましを暗記するほど読んでは、弘教に歩いた。
入会の翌年にあたる五四年(同二十九年)八月に最初の折伏が実った。
同級生の娘・宅麻千代が入会したのだ。二人は二十数歳の年の開きがあったが、共に弘教に励んだ。
反対されても、悪口を言われても、彼女たちには、込み上げる歓喜があった。また、同志がいるということが、何よりも心強かった。
燃える心には、冷たい仕打ちも苦ではない。
同志が生まれれば、勇気は百倍する。
それぞれ生活苦などの悩みをかかえてはいたが、明日への希望と確信があった。