小説「新・人間革命」大道 9 2015年2月20日

 
小豆島本部の女子部本部長である大津真美子が、山本伸一に伝えた。
「実は、二年前の豪雨で、両親を亡くした女子部員がおります」
語り始めると、すぐに伸一は言った。
「できるなら、その女子部員とお会いしましょう。そうした方こそ、直接会って励ましたい。私は、そのために来たんです」
大津は、その女子部員を呼んで来た。驚いた顔で伸一を見つめる女子部員に、彼は、力強い声で語り始めた。
「大変だったね。悲しかったでしょう。辛かったでしょう。しかし、負けてはいけません。
強くなるんです。あなたが元気に信心に励んで、これからの人生を生き抜き、亡きご両親の分まで幸せになっていくことです。
それを、ご両親も願っていますし、そうなることが、ご両親への最高の追善になるんです。
これからは、私をお父さんだと思ってください。あなたのことは忘れません。
あなたが忘れても、私は題目を送り続けます。何があっても負けないで、頑張り通してください」
女子部員は、懸命に涙をこらえ、伸一の話に、何度も、何度も、大きく頷いていた。
それから彼は、大津を見て言った。
「しっかり、面倒をみてあげてね」
大津も、姉の思いで、この女子部員を見守り、励ましていこうと心に誓うのであった。
苦しんでいる人、悩める人のために行動する。激励し抜いていく──創価の同志に
は、大変な状況のなかで生きている人を目にした時、見過ごすことなどできないという、
熱い思いが脈打っている。それは利他の心の発露であり、地涌の菩薩の使命に生き
抜くなかで育まれてきた生き方といってよい。
個人主義の風潮が強い、現代社会にあっては、人は他者との関わりを避け、自分の殻に閉じこもりがちになる。
その結果、人間の連帯が断たれて、孤独化が進んできた。
そうしたなかで、他者の幸福を願い、積極的に関わろうとする学会員の生き方こそ、人間を結び、蘇生させ、社会を潤す力となろう。