小説「新・人間革命」大道 8 2015年2月19日

小豆島は、南国情緒を感じさせた。夏空のもと、緑の山々が峰を連ね、ソテツの木々が風にそよいでいた。
「先生! ようこそ!」
山本伸一が船を下りると、島の代表が、こぼれるような笑みで、出迎えてくれた。
「ありがとう! ありがとう! お会いできて嬉しい。お世話になります」
彼が小豆島を初訪問したのは、一九六七年(昭和四十二年)九月、香川県高松市の体育館で行われた四国本部幹部大会に出席した折のことである。
島の会館建設計画を具体化するため、島内を視察したのだ。
そして、会館建設が決定し、翌六八年(同四十三年)六月、小豆島会館が完成し、開館式が行われた
会館は、緑したたる山にいだかれるように立つ、建築面積二百平方メートルほどの建物である。
以来十年の間に、小豆島は二度の豪雨災害に見舞われている。
七四年(同四十九年)七月の集中豪雨では、発生した土石流によって家屋二百四十九戸が全半壊し、死者二十九人が出た。
さらに、二年後の七六年(同五十一年)九月の台風十七号による豪雨では、山津波もあり、島内の全壊家屋は二百十二戸に上り、死者三十九人、重傷者九十一人という惨事となった。
これらの災害に対して、学会は、直ちに救援活動を行い、被災者の救援と復興のために全力を注いできた。
伸一もまた、心を砕き続けてきたのである。
午後二時過ぎ、会館に到着した伸一は、メンバーに声をかけた。
「来ましたよ。皆さんの題目に呼び寄せられて。さあ、新しい出発をしましょう」
会館の大広間は、既に人で埋まっていた。
彼は、別室で、島の中心者らが語る現況に耳を傾けた。
二度の豪雨禍の爪跡は、まだ随所に残っており、肉親を亡くすなどの被害を受けた人たちにとっては、心の復興が最も重要な課題であるという。
心の復興──その力こそが信仰なのだ。