小説「新・人間革命」 革心56 2015年 7月4日

歓迎宴は、和気あいあいとした雰囲気のなか、各テーブルで語らいが始まった。
山本伸一は、鄧穎超に尋ねた。
「『日中平和友好条約』の批准書交換のために、廖承志先生が、副総理の鄧小平閣下と共に来日されると伺っています。大変に嬉しいことです。
鄧穎超先生も、日本にいらっしゃいませんか」
「ええ、日本へは、ぜひ行きたいと思います。日本の多くの友人の方々にお礼を申し上げるために、訪問したいと考えています」
テーブルの同席者から大きな拍手が響いた。全国人民代表大会常務委員会副委員長であり、周恩来の夫人である鄧穎超が、訪日の意向を明らかにしたのだ。
伸一は、「嬉しいです! いつごろお出でくださいますか」と重ねて尋ねた。
「鄧小平副総理は、十月に日本へ行きますが、私がその団に参加すると、高齢でもありますので、皆様に迷惑をかけかねません。
それで、周恩来も桜が好きでしたので、桜の一番美しい、満開の時に行きたいと思います。山本先生は、賛成されますでしょうか」
「もちろん、大賛成です!
創価大学には、周総理を讃える『周桜』が植樹されております。来日の折には、ぜひ、ご覧いただきたい。
できれば、周総理と恋愛をされていた時のような気持ちで、日本を訪問していただければと思い
ます」
「まあ……。でも、恩来同志が日本にいた時は、まだ知り合っていませんでしたよ」
笑いが広がった。鄧穎超は、伸一と峯子を見て、「今回は、日本の友人と友情を深めるためにまいります」と言って微笑んだ。
さらに彼女は、この日閉幕した中国婦女全国代表大会で、宋慶齢らと共に、全国婦女連合会の名誉主席に就任したことを伝え、女性の幸せのために人生を捧げたいと語った。
鄧穎超は七十代半ばであったが、人民に奉仕し抜こうとの気概は、いささかも後退することはなかった。
思想、信念が本物であるかどうかは、晩年の生き方が証明するといえよう。