小説「新・人間革命」 勝利島 53 2015年9月22日

八丈島は、伊豆七島の一つで、東京の南方海上約二百九十キロに位置している。
学会の大田区の組織に伊豆七島本部があったことから、八丈島の同志は、大田区の会館に立ち寄ることが多かった。
この日、大森文化会館に来たのは、草創の八丈支部支部婦人部長を務めた菊田フジ子、そして、同じ姓の菊田秀幸・淳子夫妻と、その娘たちであった。
高校二年、中学一年、小学五年生になる三姉妹である。
菊田秀幸は、中学校の教員をしていた。
山本伸一は、彼の娘たちに、パンを渡し、ジュースを勧めながら、今日は、どこに宿泊するのかを尋ねた。
「おばちゃんの家です」
末娘が答えると、母親の淳子が、「主人の姉の家です」と説明した。
伸一は、末娘に聞いた。
「おばちゃんに、お土産は?」
娘は首を横に振った。伸一は、「それでは、これをおばちゃんに」と言って、会員への激励のために用意していた菓子折を渡した。
秀幸は、宿泊場所や宿泊先への土産まで気遣ってくれる伸一の真心に、胸が熱くなった。
伸一は、菊田フジ子に言った。
「あなたが苦労して戦われてきたことは、よく知っています。
八丈島は、今、三支部に発展した。見事な拡大です。
鼓笛隊も誕生しましたね。本当にすごいことです」
伸一は、機関紙誌に離島が取り上げられると、克明に目を通し、島の様子を心に刻んできた。
八丈島についても、『聖教グラフ』三月一日号に掲載されたルポルタージュを見て、島の同志を励ましたいと思っていたのだ。
彼の言葉に力がこもった。
「組織が発展し、皆が功徳を受けていくならば、それは、草創期に道を切り開いてきた人に、全部、福運となって回向されます。
大聖人は『功徳身にあつまらせ給うべし』(御書一二四一㌻)と仰せです。
苦労を重ねて広布の大地を開墾し、妙法の種を蒔いた人を、諸天は永遠に大絶讃してくださるんです」