小説「新・人間革命」 常楽2 2016年 1月4日

山本伸一は、聖教新聞社の玄関前で、女子部の代表らと共に、ガルブレイス博士夫妻を出迎えた。
長身で銀髪の博士が車を降りると、大きな拍手が湧き起こった。
博士は、一九〇八年(明治四十一年)生まれで、間もなく七十歳になる。
しかし、その瞳には闘志が光り、その表情には青年の活力があふれていた。
挑戦への燃える心をもつ人は若々しい。
伸一は手を差し出しながら、語りかけた。
「長旅でお疲れのところ、ようこそおいでくださいました。お会いできて光栄です」
博士は、九月十日にアメリカを発ち、要人との会見や講演を重ねながら、イタリア、フランス、デンマーク、ベルギー、インド、タイを経て、日本へやって来たのだ。
しかし、疲れも見せず、満面に笑みを浮かべて語った。
「私の方こそ、お会いできることを楽しみにしておりました。また、皆さんの温かい歓迎に、旅の疲れなど吹き飛びました」
その横でキャサリン夫人が、伸一の妻の峯子から贈られた花束を抱えて言った。
「奥様から花束をいただいたうえに、皆さんからは、庭中を埋め尽くす、美しい笑顔の花を頂戴しました。これで元気にならない人などおりません」
この言葉に、さらに微笑の大輪が広がった。
伸一は、「今日は、大いに語り合いましょう。人類の未来のために!」と言って、一行を案内し、館内に入った。
ガルブレイスは、カナダで大学を卒業し、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得。
ハーバード大学教授、駐インド大使、アメリカ経済学会会長などを務める一方、フランクリン・ルーズベルトトルーマンケネディ、ジョンソンと、アメリカの歴代大統領を支えてきた。
著書も、『ゆたかな社会』『新しい産業国家』『経済学と公共目的』など数多い。なかでも、この年の二月に邦訳出版された『不確実性の時代』はベストセラーとなり、彼の名は日本でも広く知られるようになっていた。