小説「新・人間革命」 常楽2 2016年 1月4日
長身で銀髪の博士が車を降りると、大きな拍手が湧き起こった。
博士は、一九〇八年(明治四十一年)生まれで、間もなく七十歳になる。
しかし、その瞳には闘志が光り、その表情には青年の活力があふれていた。
挑戦への燃える心をもつ人は若々しい。
伸一は手を差し出しながら、語りかけた。
「長旅でお疲れのところ、ようこそおいでくださいました。お会いできて光栄です」
しかし、疲れも見せず、満面に笑みを浮かべて語った。
「私の方こそ、お会いできることを楽しみにしておりました。また、皆さんの温かい歓迎に、旅の疲れなど吹き飛びました」
その横でキャサリン夫人が、伸一の妻の峯子から贈られた花束を抱えて言った。
「奥様から花束をいただいたうえに、皆さんからは、庭中を埋め尽くす、美しい笑顔の花を頂戴しました。これで元気にならない人などおりません」
この言葉に、さらに微笑の大輪が広がった。
伸一は、「今日は、大いに語り合いましょう。人類の未来のために!」と言って、一行を案内し、館内に入った。
著書も、『ゆたかな社会』『新しい産業国家』『経済学と公共目的』など数多い。なかでも、この年の二月に邦訳出版された『不確実性の時代』はベストセラーとなり、彼の名は日本でも広く知られるようになっていた。