小説「新・人間革命」 力走38 2016年5月9日

山本伸一は、さらに、法華経の「普賢菩薩勧発品」の、「普賢よ。若し後の世に於いて是の経典を受持・読誦せば、是の人は復衣服・臥具・飲食・資生の物に貪著せじ。
願う所は虚しからじ。亦現世に於いて、其の福報を得ん」(法華経六七六ページ)の文を引いて指導していった。
「この経文は、末法にあって、御本尊を受持し、信心を貫いていった人は、物欲に振り回されるような生き方を脱して、所願満足の境涯に入っていくことを述べられています。
信心を貫いていくうえで必要なのは、勇気です。勇気とは、本来、外に向けられるものではありません。
弱い自分、苦労を回避しようとする自分、新しい挑戦を尻込みしてしまう自分、嫌なことがあると他人のせいにして人を恨んでしまう自分など、自己の迷いや殻を打ち破っていく心であり、それが幸福を確立していくうえで、最も大切な力なんです。
高知の皆さんは、自分に打ち勝つ、勇気ある信心の人であってください」
高知支部結成二十二周年を記念する幹部会は、喜びの弾けるなか、幕を閉じた。
彼は、休む間もなく激励に館内を回り、屋上で開かれた茶会にも、参加者の労をねぎらうために顔を出した。
そこで歯科医師で県副婦人部長をしている樫木幸子と、その母親、男子部の長男、女子部の長女と懇談した。
幸子は、一九五八年(昭和三十三年)の一月、学会に入会。勤行は始めたものの、学会活動には消極的であった。その翌年、夫を交通事故で亡くした。息子は九歳、娘は五歳であった。
途方に暮れた。自分の宿業を思い知らされた気がした。
私が強くならなければ、試練の荒波に負けない自分にならなければ……。
また、人生には福運が大事だ。この信心に励めば、自分を変えられるし、宿命も転換でき、福運をつけることもできるという。
よし、本格的に信心をしてみよう!
彼女は決意した。歯科医院を営みながら子どもを育て、懸命に学会活動に励んだ。