【第25回】 「赤毛のアン」の作者 モンゴメリ  (2016.4.1)

きょうも、朝の太陽はのぼる!
 
希望の春がやって来ました。
1年生のみなさん、入学おめでとう。進級したみんなも、新しい出発だね。朝の太陽とともに、1日1日を、元気いっぱいにスタートしよう!
たとえ、くもりの日でも、雨がふっても、雲の向こうには、休むことなく太陽がのぼります。
太陽が顔を出すと、明るくなり、あたたかくなって、花や木も、動物や虫たちも、元気になります。
みなさんがさわやかに「おはよう!」とあいさつすることは、朝の太陽の光のように、ご家族や友だちの心を照らすのです。
みなさんは、『赤毛のアン』という本を読んだことはありますか。悲しいできごとがあったり、失敗をしたりしても、朝になったら元気になって、太陽のように明るく生きた少女の物語です。カナダの女性ルーシー・モード・モンゴメリが書いたお話で、世界中で読まれ続けています。
きょうは、朝の光とともに、『赤毛のアン』の世界に、行ってみようよ。
 
作者のモンゴメリは、1874年の11月、カナダの東部にあるプリンス・エドワード島で生まれました。モンゴメリがまだ2歳にもならないうちに、お母さんは病気にかかり、亡くなってしまいます。お父さんは、仕事で島をはなれたため、おじいさんとおばあさんに育てられました。
両親がいないさびしさをなぐさめてくれたのは、島の美しい自然です。家の周りには、きれいな森や海や湖が広がり、小川が流れ、色とりどりの花が咲いて、動物たちもたくさんいました。モンゴメリは大好きな花や木、場所に名前をつけては、自然を友だちのように大切にして成長していきました。
小学校の入学式の翌日のことです。モンゴメリは学校をちこくしてしまいました。だれにも気づかれないよう、こっそりと教室に入り、自分の席に、すわりました。
しかし、大失敗! あわてていたので、ぼうしをかぶったままだったのです。それを見たクラスのみんなは、大笑い。モンゴメリは、あまりのはずかしさで、教室からぬけ出してしまいました。大人になっても、この日のことは忘れられませんでした。
でも、そんな思いをしたからこそ、モンゴメリのお話には、自分のことがいやになったり、友だちのことがうらやましくて、さみしくなったりした子どもたちへの「はげまし」にみちています。
その時はくやしいこと、いやなことも、長い人生の中では、必ず力になって、役に立っていくものです。すばらしい信心をもっているみなさんにとっては、なおさらです。大事なのは、何があっても負けないこと、失敗してもくじけないことなのです。
  
モンゴメリは本を読むのが大好きでした。家にある本は暗記するぐらい、何度も読みました。9歳のころから「日記」をつけ始め、楽しいこと、悲しかったことなど、何でも書きました。そして、作家になる夢を大きく育てていったのです。
卒業したモンゴメリは、19歳の時、学校の先生となりました。作家になる夢を忘れられず、家に帰ると机に向かい、作品を書き続けましたが、なかなか進みません。
そこで、朝1時間早く起きて、文を書くようにしました。冬はこごえるほど寒い部屋でコートを着て、ペンをにぎりました。やがて、少しずつ自分の作品が新聞や雑誌にのるようになります。そして33歳で『赤毛のアン』を出版することができたのです。
モンゴメリは、夢に向かって朝一番に努力しました。来る日も来る日も、たゆまずのぼる太陽とともに、朝をがんばりぬいて、夢をかなえたのです。
赤毛のアン』もまた、そんなすばらしい朝の出発のお話が、たくさん出てきます。
──物語のはじまり、小さい時にお父さん、お母さんをなくしたひとりぼっちの少女アンは、ある駅にいます。
むかえにきてくれたのは、年老いたマシュウさん。妹のマリラさんといっしょに、農場の手伝いができる「男の子」を、しせつからもらうことにしていました。それが、いきちがいがあって、「女の子」のアンがくることになってしまったのです。
マシュウやマリラもびっくりしましたが、一番悲しかったのは、アンです。自分が来たのはまちがいだったことを知って、食事ものどを通らないほどでした。
しかし、次の日の朝、アンが目をさまして窓から外を見ると……。
「朝だ。こんなにも気持ちよく晴れわたった朝だ。それの窓の外では、サクラの花が満開だ。悲しみの黒雲なんか吹きとばしてしまえ!」「朝があるってほんとにすばらしいことじゃない?」と、元気を取りもどしていくのです。
木々も、花も、小川も、森も、朝のすべてが、アンをはげましてくれているように思えました。
そんなアンを、マシュウもマリラも好きになって、いっしょに仲良くくらしていきます。そうしてアンは二人にとって、かけがえのない宝物になっていくのです。
物語が進むと、アンがすばらしい成績で進級し、先生になるための学校の入学試験を受ける場面があります。
アンは、算数が苦手でした。いよいよ、あしたはその試験の日です。アンは、自分に言い聞かせました。
「あたしが幾何(算数)で失敗しようがしまいが、太陽は相変わらずのぼったり沈んだりするんだわ」
そうです! 何があっても、太陽はのぼるのです。暗い夜のような、さみしく、つらい時がずっと続くように思えても、朝は必ずやってくるのです。
だから、うまくいくかどうか心配するよりも、思い切ってやってみることです。うまくいかなかったら、また、挑戦すればいいんです。太陽が、またのぼるように!
   
赤毛のアン』には、続きのお話が、たくさんあります。
『アンの青春』という物語には、大人になったアンが、小さな村の先生になって、がんばる姿が書かれています。
うまく教えられない自分がいやで、落ち込むアンを、マリラがはげまします。その真心のおかげで、アンは次の朝、晴ればれとしていました。そして、大好きな詩をうたいます。
 「朝ごとに、
  すべては新しく始まり
  朝ごとに、
  世界は新しく生まれ変わる」
みなさんにも、毎日毎日、新しい朝が来ます。たとえ、きのうまで失敗続きでも、悲しいことがあっても、新しい朝が来て、新しい一日が始まるのです。
「きょう」という一日は、まだ何も決まっていません。それどころか、自分でどうするか決めることができる、希望にみちた一日なのです。「きょうは、がんばるぞ」と心に決めれば、少し大変なことがあっても、その通りにしていくことができます。
だから、まず朝を元気いっぱい出発しよう! 私たちには、その最高の元気を引き出せる勤行・唱題があります。
勤行ができない時は、題目三唱でもいい。題目には、全宇宙に向かって、「おはよう」のあいさつをおくるような、すごい力があります。はつらつと、題目をとなえれば、エネルギーが満タンです。
さあ、朝だ! 光だ! 希望だ!
きょうも元気に飛び出そう!
 
※参考文献は、「険しい道 モンゴメリ自叙伝』山口昌子訳(篠崎書林)、モンゴメリ著『赤毛のアン村岡花子訳(旺文社)、モンゴメリ著『アンの青春』松本侑子訳(集英社)、奥田実紀著『名作を生んだ作家の伝記 6 「赤毛のアン」の島で~L・M・モンゴメリ~』(文溪堂)ほか。