大山 43

 会場の中央にいた男性が立ち上がった。まだ30代の東北方面の県長である。彼
は、県長会の参加者に怒(いか)りをぶつけるかのように、声を張(は)り上げて訴(うった)えた。
 「皆さんは、先生が辞任されるということを前提に話をしている。私は、おかしいと思う。そのこと自体が、納得できません!」
 沈黙(ちんもく)が流れた。
 伸一の声が響(ひび)いた。
 「辞任が大前提でいいじゃないか。私は、そう決めたんだ。これで新しい流れができ、学会員が守られるならば、いいじゃないか。
 声を荒らげるのではなく、学会は和気あいあいと、穏やかに、団結して進んでいくことだよ。私と同じ心であるならば、今こそ、同志を抱きかかえるようにして励まし、元気づけていくんだ。みんなが立ち上がり、みんなが私の分身として指揮を執るんだ!

 初代会長の牧口先生が獄死されても、戸田先生がその遺志を受け継いで一人立たれた。そして、会員75万世帯を達成し、学会は大飛躍した。その戸田先生が逝去(せいきょ)された時、私は、日本の広宣流布を盤石(ばんじゃく)にし、必ずや世界広布の流れを開こうと心に誓(ちか)った。そうして今、大聖人の仏法は世界に広がった。
 物事には、必ず区切りがあり、終わりがある。一つの終わりは、新しい始まりだ。
その新出発に必要なのは、断固たる決意だ。誓いの真っ赤な炎(ほのお)だ。立つんだよ。皆が後継の師子(しし)として立つんだ。いいね。頼(たの)んだよ」

 県長会は、涙のなかで幕を閉じた。
 何があろうと、皆の心に峻厳(しゅんげん)な創価の師弟の精神が脈動(みゃくどう)している限り、新しき道が開かれ、広宣流布は伸展していくのだ。
 引き続き、午後には総務会が開かれた。
 この席上、伸一の会長辞任の意向が伝えられ、受理された。さらに総務会では、懸案(けんあん)であった「創価学会会則」の制定を審議し、採択(さいたく)。これに基(もと)づき、新会長に十条潔(じゅうじょうきよし)が、新理事長に森川一正(もろかわかずまさ)が選任され、伸一は名誉会長に就任した。それは、伸一にとって、壮大な人生ドラマの新章節の開幕であった。