大山 42


 山本伸一は、力強い口調で語り始めた。
 「これからは、新会長を中心に、みんなの力で、新しい学会を創(つく)っていくんだ。私は、じっと見守っています。悲しむことなんか、何もないよ。壮大(そうだい)な船出(ふなで)なんだから」
 会場から声があがった。
 「先生! 辞(や)めないでください!」
 すすり泣きがもれた。それは次第に大きくなっていった。号泣(ごうきゅう)する人もいた。

 一人の壮年が立ち上がって尋(たず)ねた。
 「今後、先生は、どうなるのでしょうか」
 「私は、私のままだ。何も変わらないよ。どんな立場になろうが、地涌の使命に生きる一人の人間として戦うだけだ。広宣流布に一身を捧(ささ)げられた戸田先生の弟子だもの」
 青年の幹部が、自らの思いを確認するように質問した。
 「会長を辞められても、先生は、私たちの師匠(ししょう)ですよね」
 「原理は、これまでに、すべて教えてきたじゃないか!
 青年は、こんなことでセンチメンタルになってはいけない。皆に、『さあ、新しい時代ですよ。頑張りましょう』と言って、率先(そっせん)して励ましていくんだ。恐れるな!」

 次々に質問の手があがった。
 「県長会には出席していただけますか」
 壮年の質問に伸一は答えた。
 「新会長を中心に、みんなでやっていくんだ。いつまでも私を頼(たよ)っていてはいけない。
 これまで私は、全力で指導し、皆の育成にあたってきた。すべてを教え、伝えてきた。卒業のない学校なんかない」
 「各県の指導には回っていただけるんでしょうか。ぜひ、わが県に来てください」
 涙(なみだ)を浮(う)かべながら、婦人が言った。
 「ありがとう。でも、今までに何度となく各県を回ってきたじゃないか。これからは、平和のために、もっと世界を回りたい。いつ戦争になるかわからない国もある。できる限りのことをしておきたいんだよ」
 平和への闘魂(とうそう)がほとばしる言葉であった。