大山 41

県長会のメンバーは、十条潔の説明で、山本伸一が会長辞任を決意した理由はわかったが、心の整理がつかなかった。
 十条は話を続けた。
 「先生は、この際、創価学会の会長だけでなく、法華講総講頭の辞任も宗門に申し出られました。こちらの方は、宗門との間に生じた問題の一切の責任を負われてのことです。
 先生が会長を辞められるというと、どうしても、私たちは悲しみが先に立ってしまう。しかし、大切なことは、先生の決断を、その心を、しっかりと受けとめ、未来に向かい、明るくスタートすることではないかと思う。
 力のない私たちではあるが、これから力を合わせて、『先生。ご安心ください』と言える創価学会をつくることが、弟子の道ではないだろうか!
 なお、今後の流れとしては、先生の勇退のお話を受けて、本日、午後から総務会を開催し、勇退が受理されたあと、記者会見を開き、正式発表となる予定であります」

 彼の話は終わった。拍手が起こることはなかった。婦人の多くは、目を赤く腫(は)らしていた。虚(うつ)ろな目で天井を見上げる壮年もいた。怒りのこもった目で一点を凝視(ぎょうし)し、ぎゅっと唇(くちびる)を噛(か)み締(し)める青年幹部もいた。
 その時、伸一が会場に姿を現した。
 「先生!」
 いっせいに声があがった。
 彼は、悠然(ゆうぜん)と歩みを運びながら、大きな声で言った。
 「ドラマだ! 面白いじゃないか! 広宣流布は、波瀾万丈(はらんばんじょう)の戦いだ」
 皆と一緒に題目を三唱し、テーブルを前にして椅子(いす)に座ると、参加者の顔に視線(しせん)を注いだ。皆、固唾(かたず)をのんで、伸一の言葉を待った。
 「既(すで)に話があった通りです。何も心配はいりません。私は、私の立場で戦い続けます。広宣流布の戦いに終わりなどない。私は、戸田先生の弟子なんだから!」
 彼は、烈風(れっぷう)に勇み立つ師子であった。創価の師弟の誇りは、勇気となって燃え輝く。