小説「新・人間革命」 雌伏 七2017年3月31日
軽井沢は、戸田城聖が逝去前年の一九五七年(昭和三十二年)八月に訪れ、最後の夏を過ごした地である。
滞在中、戸田は、伸一と森川一正を招き、鬼押出に車を走らせて、奇岩の連なる景観を見せ、ホテルで共に食事をした。
大阪事件で不当逮捕された伸一を、ねぎらいたかったのである。
食事をしながら、師弟の語らいは弾み、話題は、戸田が「妙悟空」のペンネームで執筆した小説『人間革命』に及んだ。
この小説は、五一年(同二十六年)四月の「聖教新聞」の創刊号から連載されてきたもので、この五七年(同三十二年)七月に単行本として発刊されたばかりであった。
小説の主人公「巌さん」は、印刷工場に勤め、八軒長屋に住む市井の壮年である。
さらに学会の理事長に就任し、牧田会長を支えていくのだ。
しかし、戦時中の軍部政府の弾圧で、会長の「牧田先生」も、牧田を師と慕う「巌さん」も、共に投獄されてしまう。
そして、生涯、この法華経を弘めていこうと決意するところで、小説は終わる。
小説の前半、「巌さん」は、戸田城聖とは全く異なる架空の人物として描かれていくが、後半の「巌さん」の体験は、戸田自身の体験となる。