小説「新・人間革命」 雌伏 四十四 2017年5月16日

新しき十年の開幕となる、この一九八〇年(昭和五十五年)、世界は激動していた。
前年、中東・イランでは、パーレビ朝が倒され、四月にはホメイニ師を最高指導者とするイラン・イスラム共和国が成立した。
また、前年十二月、ソ連は内戦が続くアフガニスタンに侵攻した。
紛争は長期化、泥沼化の様相を呈し、それは、より深刻な米ソの対決に発展することが懸念されていた。
こうした中東情勢の悪化は、石油危機をもたらし、世界経済の混乱も招きかねない。
いわば、世界の行く手は極めて不透明であり、不安の雲が垂れ込めるなかでの新年の出発であった。
山本伸一は、元朝、静岡研修道場にあって深い祈りを捧げながら、平和への道を開くため、世界広宣流布のために、いよいよ本格的な行動を開始しようと心に誓ったのである。
青空に白い雲が浮かび、海は紺碧に輝いていた。双眼鏡をのぞくと、白い船が進んで来る。船体には、太陽をデザインしたオレンジ色の模様があり、甲板に人影も見える。
大型客船「さんふらわあ7」号だ。船はカーブし、波を蹴立てて、横浜の大桟橋をめざす。
一月十四日の正午前、山本伸一は、妻の峯子と共に、横浜にある神奈川文化会館の一室から海を見ていた。
この日、四国の同志約八百人が船を借り切り、丸一日がかりで、伸一を訪ねて神奈川文化会館へやって来たのだ。
前日、天候は荒れ、東京にも、横浜にも雪が降った。
低気圧が日本の東海上に張り出し、海も荒れることが予想された。
一時は、航海を中止してはどうかとの話も出た。
しかし、四国の同志は、「断固、行く!」と、荒波に向かって旅立ったのである。
伸一は、この夜、皆が無事故で元気に到着できるよう、真剣に唱題し、祈った。
楽しき広布の物語を創ってほしかったのである。
広宣流布の大いなるドラマに連なる自身の物語をもつことは、人生を豊かにしていく。