小説「新・人間革命」 雌伏 四十五 2017年5月17日

四国の同志は、山本伸一の会長辞任後、月日を経るにつれて、彼の訪問を強く希望するようになっていった。
もとより、それは四国だけではなかった。
全国各地から伸一に寄せられる便りの多くが、来訪を求めていた。
四国では県幹部らで語り合った。
「山本先生に、四国においでいただくわけにはいかないのでしょうか。
やはり、四国広布の大前進のためには、先生のもとで、再度、師弟共戦の決意を固め、信心の歓喜のなかで新出発するしかないと思います」
婦人部の幹部が、思い詰めたように、こう切り出すと、年配の壮年幹部が言った。
「しかし、先生は会合で指導したり、機関紙誌に登場したりすることができない状況だからね。
残念だが、時を待つしかないのかもしれないよ」
「でも、いつまで待てばいいのですか。五年ですか、十年ですか」
「いや、いつまでと言われても……」
そうした語らいを聞きながら、四国長の久米川誠太郎は胸を痛めた。
皆のこの思いをかなえる方法はないものか。なんとかしなければ!
先生が会長を辞められてから、皆の心には、空虚感のようなものが広がり、歓喜も次第に薄れてきているように感じる。
今こそ、弟子が立ち上がるべき時であるこ
とは、よくわかる。しかし、そのための契機となる起爆剤が必要なのだ。
それには、やはり先生に皆とお会いいただくしかない。
では、具体的に、どうすればよいのか……
久米川に、一つの考えがひらめいた。
彼は、意を決したように口を開いた。
「先生の行動が制約されているのなら、私たちの方から、お伺いしよう!」
彼の言葉を受けて、四国青年部長の大和田興光が身を乗り出すようにして語った。
「ぜひ、そうしたいと思います。私たちと先生の間には、本来、なんの障壁もないはずです。
あるとすれば、それは弟子の側がつくってしまった、心の壁ではないでしょうか」