小説「新・人間革命」 雌伏 四十七 2017年5月19日

船上幹部会で、四国長の久米川誠太郎は力説した。
「今、学会を取り巻く環境は厳しいものがあります。
山本先生は自由に全国を回って指導することも、難しい状況です。
しかし、どんな力をもってしても、先生と私たちの絆を断ち切ることなど絶対にできない! 
先生の行動が制約されているなら、私たち弟子が、師匠のもとへ馳せ参じればよい。
燃え盛る求道の一念あるところに、不可能の障壁などありません。
私たち四国が先駆けとなって、先生と共に、創価学会創立五十周年の開幕をお祝いしようではないですか!」
賛同の大拍手がわき起こった。皆、意気軒昂であった。
四国でも愛媛県大洲市高知県高知市など、悪僧たちの非道な仕打ち、暴言に、皆が悔し涙を流し、耐えに耐えてきた。
そのうえ、学会員の信心の命綱ともいうべき師弟の絆を、分断しようとする策謀が実行されたのである。
もう、そんなことに唯々諾々と従うわけにはいかぬぞ!というのが、同志の真情であり、決意となっていたのだ。
山本伸一のもとには、「さんふらわあ7」号の様子が、逐一、報告された。
彼は、「ゆっくり、楽しく来てください」と伝言した。
また、船内ホールには、上映設備が整っていることを聞いていたので、「皆で映画観賞もしてください」と伝えた。
楽しい船旅となったが、夜半になると、低気圧の影響で、海は荒れ始めた。
ドドドーン! ドドッ、ドドーン!
船は揺れた。しかし、救護の役員として参加したドクター部の医師らが、事前に船酔いの予防注射を勧めるなどの対策を施していたため、事なきを得た。
何ごとによらず、無事故、大成功を収めるには、周到な備えが不可欠となる。
ゆえに日蓮大聖人は、「前前の用心」(御書一一九二ページ)を強調されているのである。
波を砕いて船は走る。皆、明日の伸一との再会に思いを馳せながら、眠りに就いた。