小説「新・人間革命」 雌伏 四十八 2017年5月20日

一月十四日の朝を迎えた。波は穏やかで、刻一刻と昇る太陽が海原を照らしていった。
やがて、「さんふらわあ7」号から、白雪を頂いた富士が見え始めた。
その堂々たる雄姿が、宗門僧らの誹謗・中傷に耐え、風雪の日々を勝ち越えてきた同志の胸に迫った。
船のラウンジからは、「ともだちの歌」などの合唱が響いていた。女子部員が、山本伸一や神奈川のメンバーに披露しようと、練習に励んでいたのである。
正午前、船は横浜の港に入った。船の左舷には、「先生!こんにちは」という言葉が一文字ずつ大書きされ、横に左から並べられていた。
ところが、接岸するのは右舷であった。
「反対側だ! 張り替えよう」
急遽、男子部の手で張り替え作業が行われたが、慌ててしまい、文字を右から並べてしまった。それも楽しいエピソードとなった。
伸一は、船が港に着くと、「さあ、皆で大歓迎しよう!」と言って、神奈川文化会館を飛び出した。
四国の同志は、デッキに立った。
大桟橋の上には、「ようこそ神奈川へ」と書かれた横幕が広げられている。
埠頭で神奈川の有志が奏でる四国の歌「我等の天地」の調べが、力強く鳴り響く。
そして、歓迎の演奏を続ける人たちの前には、黒いコートに身を包み、盛んに手を振る伸一の姿があった。
「先生! 先生!」
皆が口々に叫び、手を振り返す。涙声の婦人もいる。
伸一も叫ぶ。
「ようこそ! 待っていましたよ」
四国の同志がタラップを下りてくると、出迎えた神奈川の同志の大拍手に包まれた。
歓迎の花束が、女子部の代表から四国長の久米川誠太郎に手渡された。
伸一は、笑みを浮かべて語りかけた。
「みんな体調は大丈夫かい。よく来たね。これで勝った! 二十一世紀が見えたよ。
君たちが新しい広布の突破口を開いたんだ」
信念の行動が新時代の扉を開ける。