小説「新・人間革命」 雄飛 十三 2017年6月29日

山本伸一は、二十八日、蘇歩青との会談に続き、夕刻には作家・巴金の訪問を受けた。
巴金は、『家』『寒夜』などの作品で世界的に著名な中国文学界の重鎮であり、中国作家協会の第一副主席であった。
巴金との会談は、これが二回目であった。
今回の訪中を控えた四月五日、中国作家代表団の団長として日本を訪れた彼と、静岡研修道場で初めて懇談したのである。
ここには、中国作家協会名誉主席で、代表団の副団長として来日した現代中国文学の母・謝冰心らも同席し、文学の在り方や日本文壇の状況、紫式部夏目漱石などをめぐって、活発に意見を交換した。
この会談の六日後に行われた聖教新聞社主催の文化講演会で巴金は、「私は敵と戦うために文章を書いた」と明言している。
彼は、革命前の中国を覆っていた封建道徳などの呪縛のなか、青春もなく、苦悩の獄に?がれた人たちに、覚醒への燃える思いを注いで、炎のペンを走らせてきたのだ。
巴金は語っている。
「私の敵は何か。あらゆる古い伝統観念、社会の進歩と人間性の伸長を妨げる一切の不合理の制度、愛を打ち砕くすべてのもの」
彼は七十五歳であったが、民衆の敵と戦う戦士の闘魂がたぎっていた。
伸一は語った。
「青年の気概に、私は敬服します。
今日の日本の重大な問題点は、本来、時代変革の旗手であり、主役である青年が、無気力になり、あきらめや現実逃避に陥ってしまっていることです。
そこには、文学の責任もあります。
青少年に確固たる信念と大いなる希望、そして、人生の永遠の目標を与える哲学性、思想性に富んだ作家や作品が少なくなっていることが私は残念なんです。
社会を変えてきたのは、いつの世も青年であり、若い力です。青年には、未来を創造していく使命がある。
そして、実際にそうしていける力を備えているんです。
断じてあきらめてはならない。それは、自らの未来を放棄してしまうことになるからです」