小説「新・人間革命」 雄飛 二十八 2017年7月17日

五月四日の午前中、山本伸一は、大阪府豊中市の関西戸田記念講堂で行われた鳥取県の勤行会に出席した。
わざわざ鳥取から集って来た同志である。
彼は力の限り励まし、勇気づけたいと会場に駆けつけた。
鳥取の友の会合に出席するのは、一九七八年(昭和五十三年)七月に米子を訪問して以来、約二年ぶりであった。
どの顔も求道と歓喜の輝きに満ちていた。
鳥取支部の誕生は、伸一が会長に就任した六〇年(同三十五年)五月三日であり、この勤行会は、いわば、支部結成二十周年を記念する集いでもある。
彼は共戦の同志に、万感の思いを込めて呼びかけた。
「遠いところ、お疲れさまです。明るい、元気な皆さんの姿を拝見し、希望の未来を見るようです。
諸天も皆さんを寿ぐかのように今日も五月晴れになりました。
この関西の常勝の空を、十分に味わってください。
皆さんは、尊い地涌の菩薩です。さまざまな宿命と日々格闘しながら、それを乗り越えて、仏法の大功徳を証明し、広宣流布の使命を果たしゆく方々です。
すべての苦悩は、大幸福境涯にいたるステップです。
何があっても、信心根本に悠然と進み、意義深き黄金の思い出をつくってください。
人の一生には、さまざまな出来事がある。
しかし、長い目で見た時、真面目に信心に励んだ人は、必ず勝利し、輝いています。
背伸びする必要はありません。
ありのままの自分でいい。学会と共に進んでいくことです。
仏にも悩みはある。悩みは常につきまとうものです。
しかし、煩悩即菩提・生死即涅槃です。苦悩を歓喜へ、幸福へと転じていけるのが南無妙法蓮華経です。
濁世の、せちがらい苦労だらけの世の中で、自他共の幸せを築いていくために出現したのが、地涌の菩薩である皆さんです。
幸福を勝ち取るために、自分に勝ってください。私も、お題目を送ります」
その指導は、同志の心に、深く染み渡っていった。
地涌の使命に目覚め立つ時、勇気が湧く。大生命力がみなぎる。
 
小説『新・人間革命』語句の解説
◎煩悩即菩提など/煩悩即菩提の煩悩とは、衆生の心身を煩わし悩ませる因となる、さまざまな精神作用のこと。
法華経以前の教えでは、煩悩は苦悩をもたらす因であり、それを断じ尽くして菩提(悟り)に至ると説いたが、法華経では、煩悩を離れて菩提はなく、煩悩をそのまま悟りへと転じていけることを明かした。
生死即涅槃の生死は、迷いの境涯であり、涅槃は悟りの境地のこと。煩悩即菩提と同義。