小説「新・人間革命」 暁鐘 十 2017年9月12日

「お体をいたわってください」と言う山本伸一に、パパゾフ議長は、再度、座ることを勧め、胸の思いを一気に語った。
「私は、山本先生の行動を、特に平和を願われ、人と人とが互いに理解し合うための文化交流に挺身されていることを、高く評価しております。駐日大使の時代から、山本先生にわが国に来ていただくことを、強く望んでおりました。
今日、その念願が叶い、私は、嬉しくて仕方がないのです。
ご存じのようにわが国は、バルカン半島にあって交通の要路にあたり、文明の交差点となってきました。
それゆえに、古くから戦いが繰り返され、マケドニア王国、ローマ帝国ビザンチン帝国に支配されてきました。
モンゴルからの来襲もあり、オスマン帝国による支配は約五百年も続きました。
第一次世界大戦第二次世界大戦の辛酸もなめました。
ですから、世界平和の実現は、私の、いやすべてのブルガリア人の悲願なんです。
それだけに平和のために戦ってこられた先生の行動に期待を寄せ、大きな成果を収められるように望んでおります」
その言葉には、平和を熱願する切実な思いがあふれていた。議長は言葉をついだ。
「私は、科学技術振興委員会の議長として、将来、わが国の大学と、先生の創立された創価大学が交流できればと考えています」
伸一は重ねて議長の健康を気遣い、「どうか、国家のためにもお体を大切にしてください」と述べ、固い握手を交わした。
午後、教育省にA・フォル教育相を訪ね、引き続いてソフィア大学を訪問した。
同大学は一八八八年に創立されたブルガリア最古の国立大学である。
この日、大学から伸一に、名誉教育学・社会学博士の学位が贈られ、彼は記念講演を行うことになっていた。
伸一の名誉学術称号の受章は、ソ連モスクワ大学、ペルーのサンマルコス大学に続いて、これで三大学目となる。
大学という知性の学府との交流は、未来にわたって平和を創造する連帯をつくり出す。