【第5回】 ドイツ「二重の虹」     (2017年9月1日)

負けない心は 七色にかがやく
 
この夏、台風や水害などで大変な思いをされた地域のみなさんに心よりお見舞いを申し上げます。
「心に太陽を持て、そうすれば何ごとも良くなる!」
これは、ドイツの有名な詩です(フライシュレン作)。
大変であればあるほど、心に太陽を強く明るく、かがやかせていこうという、はげましです。
どんなことがあっても、みなさんは、お父さんやお母さん、また地域の方々と力を合わせ、題目をあげて、乗り越えていってください。1番苦労した人が、1番幸福にかがやいていけるのが、題目という、何ものにも負けない希望と勇気の太陽の光なのです。
 
ドイツで見た、忘れられない虹の思い出があります。
それは、19945月、大都市フランクフルトの近く、ゼーリゲンシュタットという町に行った時のことです。
ドイツは、第2次世界大戦の後、東と西の2つの国に分断されて、約30年もの間、自由に行き来ができなくなっていました。
当時は、それがようやく1つになり、新しい国づくりが始まって4年後のことです。みんな期待と不安が入りまじっていました。
私はドイツ、そしてヨーロッパのSGIのみなさんと、未来へ希望をつくりながら進もうと語り合ったのです。
そのうち、急に空がくもり、やがて激しい雨が降り始めました。雨つぶが建物の屋根にぶつかり、大きな音を立てました。
しばらくして、〝天の音楽〟がやんだので外を見ると、雨は上がり、太陽の光がさしていました。
するとそこに、美しい虹が現れたのです。
それは、大きな二重の虹でした。
虹は、私たちがいた建物の前を流れるマイン川の船着き場から、天に向かって勢いよく伸びていました。
ヨーロッパの友人たちのスクラムをたたえ、はげますような、希望と勝利の虹に、私は持っていたカメラを向けました。
 
雨上がりの空に、仲良くならんで、きょうだいの虹がかかりはじめました。
しっかりもののお姉さん「虹代さん」と、おっとりしている、弟の「虹太くん」です。
あざやかにかがやく虹代さんにくらべて、虹太くんは、あまり元気がありません。
「きょうは、調子が悪いなあ」と、つぶやいています。
「虹太くん、どうしたの?」
虹代さんが心配して声をかけると、虹太くんが答えました。
「だって、とつぜんの雨だったんだもの。全然、準備ができていなかったんだ。
姉さん、先に帰っていいかな?」
虹代さんは、「出番にはいつでも飛び出していけるようにって、言っておいたでしょ!」と、少しあきれ顔です。
「でも、おなかもすいちゃったし……」
くじけそうな虹太くんを、虹代さんは笑顔ではげまします。
「このマイン川は、すばらしいところよ。
川のそばでは、おいしいブドウが作られているし、お城やきれいな町があって、観光船も、大変なにぎわい。
そのみんなが私たちを見ているのよ。
近くのフランクフルトの街だって、マイン川がそばを流れていたから、世界中の人に知られる豊かな街に発展したの。
フランクフルトで生まれた大詩人ゲーテは、うたっているわ。
『虹は晴れた空にかがやくものでしょうか? 雨を降らせてごらんなさい すぐに新しい虹が現れます』って。
みんな、私たちが出てくるのを楽しみに待ってくれているんだもの」
すると、「その通りじゃ」と、大きな声がしました。マイン川おじいさんです。
「虹太くん、きょうは思った通りにいかなくて、ヘソを曲げているね。でも、こういう時が大事なんだ。
苦しい時にがんばると、いつも以上に、いい仕事ができるものだ。わしの長い経験から、まちがいない」
その言葉に、虹太くんは言い返しました。「どうせ、ぼくたちは消えてしまうじゃないか!」
「ええ、そうよ!」と、虹代さんはきっぱり言いました。「たしかに私たちは、消えてしまうわ。
でも、見た人たちの心に、勇気と希望を残していくことができる。とくに、こういう急な雨の後には、大喜びしてくれるじゃないの」
「そうだね、その通りだね。じゃあ、ぼくも、もうひとふんばりするよ」
元気になった虹太くんに船着き場のフナおじさんや、パラソルのパラおばさんたちも、声をかけます。
「虹太くん、がんばれ!」
「自信をもって! とってもきれいに見えているよ!」
さらに、緑の森の木々たちも大きな拍手を送ってくれたのです。
虹太くんは、ほこらしく胸をは張りました。
「いやなことがあっても、投げ出さないで乗り切れば、必ずいいことが待っているね」
マイン川の水面にも、2本の虹の七色が、晴れ晴れと美しく映っていきました。
 
勉強の秋、スポーツの秋、読書の秋です。2学期は、音楽会や運動会、学習発表会などに向けて、新しい挑戦が始まりますね。
がんばっても、うまくいかないことがあるかもしれない。
なかなか気分がのらないこともある。でもそんな時が、逆にチャンスなのです。思い切って一歩ふみ出せば、必ず前進できます。
たとえ失敗しようと、何度でも負けじ魂で立ち上がることです。
「次は、もう5分長く勉強しよう」「今度は0・1秒、走るタイムをちぢめよう」「あしたは、もう1ページ多く本を読もう」と。必ず必ず、新しい道が開かれます。
勤行や題目は、この負けじ魂を心の中につくってくれます。
どんなことがあっても、自分に負けずに進む人の心には、希望の七色の虹が、かがやくのです。
みんなは全員、負けじ魂をもった「ししの子」です。この2学期も元気いっぱい、挑戦しよう!
フライシュレンの詩は、『ドイツの名詩名句鑑賞』高橋健二編訳(郁文堂)から。
ゲーテの言葉は内藤道雄訳、『ゲーテ全集1 新装普及版』(潮出版社)から
 
池田先生とドイツ
池田先生が、初めてドイツを訪問した196110月は、東西冷戦と呼ばれる、世界が2つに分かれて対立する状態が続いていました。
先生の訪問は、首都ベルリンが「ベルリンの壁」という壁によって真っ二つに分けられた、わずか2カ月後の事。先生はその前に立って、「30年後には、きっと、このベルリンの壁は取り払われているだろう」と語りました。
ドイツSGIのメンバーは、池田先生と共に、世界の平和のために努力を続け、89年には先生の言葉通り、ベルリンの壁はなくなりました。今、ドイツはヨーロッパと世界の平和をリードする国です。
池田先生は今まで、7回にわたってドイツを訪問しています。
美しいライン川沿いの都市ビンゲンには、「ヴィラ・ザクセン」という白壁のお城のような会館があり、市の行事なども開かれる、平和と文化の発信地になっています。