小説「新・人間革命」 暁鐘 十五 2017年9月18日
折からブルガリア建国千三百年祭で、外国の賓客が相次いでいることを考え、伸一は、最初に、「早くおいとまいたします」と告げて、語らいに入った。
そして、黒海の汚染が進みつつあることを憂慮していた伸一は、沿岸諸国が協力し、浄化を進めていくことを提案した。
黒海の海面から水深二百メートルより下は、地中海系の水が入り込み、停滞しているため、塩分が高い。
溶存酸素もなく、硫化水素が多いことから、魚類はすめない状態であった。
漁業は、主に、水深が浅く、各河川の流入で塩分の少なくなった北岸で行われてきた。
しかし、この沿岸も、近年、各河川からの、流入泥土などによるヘドロ化が懸念されていたのである。
その費用を捻出するために、沿岸諸国は、互いに少しずつ武器を減らし、力を合わせて、黒海をきれいにしていってはどうかと、提案したいと思います」
議長は賛同しつつ、こう述べた。
「そうです。お互いに武器を減らさない限り、その構想を実現することは不可能です。
黒海の海はつながっている。
しかし、沿岸諸国の背景にある東西両陣営の対立が、国と国との結束を阻み、環境破壊を放置させる結果になっているのだ。
イデオロギーが人間の安全に優先する――その転倒を是正する必要性を訴え、伸一は世界を巡ってきたのである。