小説「新・人間革命」 暁鐘 十六 2017年9月19日

山本伸一は、さらにジフコフ議長に、「重工業も大切ですが、今後は軽工業を、もっと充実させていく必要があるのではないでしょうか」などの意見を伝えた。
議長は「同感です」と述べ、今後の展望について語った。
「最近、わが国は、次第に国民の生活レベルが上がりつつあるので、軽工業を重視し、人びとの生活を豊かにするように力を注いでいます。
また、文化のレベルを、もっと上げることに取り組んでいます。パンは、今、豊富にあります。
だから本を普及させ、各家庭の図書の充実に努めているところです」
ジフコフは、戦後、ブルガリアが王制を廃止し、人民共和国となると、一九五四年(昭和二十九年)にはブルガリア共産党第一書記(後に書記長に改称)に就任し、首相も兼任した。
以来、国家の最高指導者を務めてきた。
テレビカメラが回るなかでの会見であった。伸一は、三十分ほどで辞去した。
一行は、この日午後、ソフィアから車で二時間ほどのところにあるブルガリア第二の都市・プロブディフ市を視察した。
新石器時代からの歴史をもつブルガリア最古の都市であり、木々の緑とレンガ色の屋根が美しいコントラストを描く街並みが続いていた。
伸一は、地元の県議会副議長らと会談したあと、市内に建設されたトラキア団地に案内された。
ここで記念に樅の木を植樹することになっていた。
植樹をしようとすると、近くにいた子どもたちが集まって来た。
「一緒に木を植えようよ」と語りかけると、皆、笑顔で頷いた。
伸一は、「この木が大樹に育ちますように。そして、ブルガリアと日本の友情が大きく育ちますようにとの祈りを込めて、植樹させていただきます」と言って土をかけた。
子どもたちが後に続いた。
子らに、「将来、何になりたいの?」と尋ねると、目を輝かせて、口々に夢を語った。
時代はどんなに激動したとしても、子どもが夢をいだけるならば、希望の未来がある。