小説「新・人間革命」 暁鐘 十七 2017年9月20日
山本伸一たちは、遺跡の町ともいうべきプロブディフの旧市街へ足を運んだ。
国定文化財である歴史的な建造物に案内されると、六十人ほどの少年合唱団が待っていた。
濃い茶の上下に、フリルの付いた白いシャツを着た少年たちが、澄んだ美しい歌声で、次々と合唱を披露してくれた。
そして、一人の少年が前に進み出て言った。
次は、日本のお客様のために、日本語で歌を歌います。『草津節』です」
皆の心を和ませようとする配慮であろう。
草津よいとこ 一度はおいで ハ ドッコイショ お湯の中にも コリャ花が咲くョ
このあとに入る合いの手の「チョイナ チョイナ」が、「チェイナ チェイナ」という発音になってしまう。
それがまた、いっそうかわいらしさを感じさせる。
合唱が終わると伸一は、イスから立ち上がり、大きな拍手を送り、御礼を述べた。
「なんと清く、なんと美しく、なんと楽しい合唱でしょう。感動しました。
ひと時の合唱のために、長い時間をかけて、一生懸命に練習してくださった、皆さんの真心が胸に染み渡ります。
この短い出会いが、永遠の宝物となりました。ありがとう!
一緒に日本で、温泉につかっているような、温かい気持ちになりました。
どうか、日本へ来てください。友情を結んでください」
子どもは“未来からの使者”である。伸一が、その使者たちに託して、未来に贈ろうとしたものは、“友情で世界を結び、平和を築いてほしい”とのメッセージであった。
「子ども! 彼の小さな体には偉大なる魂が宿っている」(注)とは、伸一夫妻が親交を結んだ中国文学の母・謝冰心の言葉である。
小説『新・人間革命』の引用文献
注 謝冰心著『冰心全集1』卓如編、海峡文芸出版社(中国語)