小説「新・人間革命」 誓願 四十四 2018年5月17日


保守派指導者によるクーデターは、ロシア大統領のエリツィンが打倒を呼びかけ、民主化を求める民衆がこれに続き、鎮圧された。
解放されたゴルバチョフが、モスクワに戻ると、既に実権はエリツィンに移り、その流れは、加速していった。
一九九一年(平成三年)八月、ゴルバチョフ共産党書記長を辞任し、党解散に踏み切る。
九月には、バルト三国の独立をソ連国家評議会が承認。
十二月、ロシアのエリツィンの主導で、ウクライナベラルーシの三共和国が、ソ連邦に代わる独立国家共同体の創設を宣言する。
この創設の協定には、十一の共和国が調印し、ソ連邦消滅が決まり、ゴルバチョフソ連大統領を辞任する。
ロシア革命から七十四年、東側陣営を率いてきたソ連は、歴史の大激流にのみ込まれるようにして幕を閉じた。
ソ連の最初にして最後の大統領となったゴルバチョフは、激しい批判にさらされたが、彼の決断と行動は、ソ連、東欧に、自由と民主の新風を送り、人類史の転換点をつくった。
ゴルバチョフの親友で、彼のペレストロイカを支援した著名な作家のチンギス・アイトマートフは、ゴルバチョフの大統領辞任直後、山本伸一に一文を送った。
ゴルバチョフに語られた寓話」と題するもので、ペレストロイカに対する、ゴルバチョフの信念を伝えるエピソードを綴ったものであった。
アイトマートフは、ペレストロイカが実行に移され、未曾有の民主的改革として脚光を浴びていた時、ゴルバチョフに呼ばれ、クレムリンの執務室に出向いた。
そこで、こんな寓話を語ったという。
──ある時、偉大な為政者のもとに、一人の予言者が訪れ、「民の幸福を願い、完全な自由と平等を与えようとしているというのは、本当なのか」と尋ねる。
その通りであると述べる為政者に、予言者は告げる。
「あなたには二つの道、二つの運命、二つの可能性があります。どちらを選ぶかは、あなたの自由です」