小説「新・人間革命」 陽光39

山本伸一の口調は、いつになく厳しかった。
 彼は、アメリカ本部の職員のなかに、アメリカの中心者に対して、「独断的である」など、不満が兆していることを耳にしていた。
 コンベンションは、大成功に終わったものの、中心者が職員の信頼を失い、団結することができなければ、早晩、広宣流布の前進は行き詰まってしまうことになる。
 伸一は、そうした事態だけは、なんとしても避けなければならないと思った。
 だから彼は、あえて厳しく、アメリカの中心者に語ったのである。
 「人間が権威的、官僚的になるのは、力のない証拠です。周囲の人を納得させる力もなく、尊敬を勝ち取る人間的な魅力もないと、立場や権威で人を従わせようとするようになってしまう。
 偉ぶって一方的に指示をするだけでは、みんなの心は離れていきます。
 職員に頑張ってもらうためには、気さくに声をかけ、胸襟を開いた対話をしていかなくてはならない。
 そして、良い意見を聞いて、どんどん取り上げていくことです。
 アメリカは民主主義の象徴の国です。その国で独裁のような体質の組織をつくってしまえば、必ず広宣流布は破綻してしまいます。
 みんなでなんでも話し合い、“対話第一”でいくことです」
 アメリカの哲学者デューイは断言している。
 「民主主義は話し合いからはじまる」(注1)
 伸一の話は続いた。
 「身近なスタッフの支持を得られなければ、本当の戦いは起こせない。
 大きな会合に出た時は笑顔を振りまいていても、日ごろ、スタッフと接する態度が、横柄、傲慢ではいけないよ。
 みんなに、『お世話になります。よろしくお願いします』という態度を忘れないことです。人は結局は、人間性、人柄についてくるんです」
 仏典には釈尊の人柄について、こう記されている。
 「実に<さあ来なさい><よく来たね>と語る人であり、親しみあることばを語り、喜びをもって接し、しかめ面をしないで、顔色はればれとし、自分のほうから先に話しかける人」(注2)
 それが仏法者の真の在り方である。



引用文献
 注1 C・ラモント編『デューイをめぐる対話』永野芳夫他訳、春秋社
 注2 『中村元選集〔決定版〕第12巻 ゴータマ・ブッダII』春秋社