小説「新・人間革命」 陽光40

 四月九日午後、山本伸一は、マリブの研修所で、アメリカ滞在中最後となる青年リーダーの研修会を行った。
 彼は、今回のアメリカ訪問の眼目は、青年の育成にあると決めていた。
 “今こそ、アメリカ広布の中核となっていく青年を育成しておかなければ、未来の発展はない”と考えていたのだ。
 だからアメリカ到着二日後の三月九日には、サンフランシスコで男女青年部の代表四十人に対する研修会を開催した。
 ここでは、社会に仏法を開いていくために、教学研鑽が最重要であることを訴えるとともに、広宣流布のための出版活動の推進などを提案し、活動の展望を示した。
 そして、このメンバーで「ウィズダム(英知)グループ」を結成したのである。
 さらにマリブでは、パナマ・ペルー訪問をはさんで、これまで計六回にわたり、時間をこじ開けるようにして、青年研修を実施してきた。
 研修は、いずれも懇談会形式で進められた。
 伸一は、できる限り、最初に勤行を共にするようにした。そこにこそ、真実の生命の交流があるからである。
 また、信心の基本である、唱題の意義などについて、あらゆる角度から語っていった。
 「南無妙法蓮華経こそ生命を革命する、世界共通の音声です。宇宙の大生命と自己とを融合させる道は、唱題しかありません。
 勤行によって、わが生命は覚醒し、生命力を汲み上げることができる。さらに、自身の生命を磨き、仏性を現していくのが唱題です」
 一回一回の研修に、彼は真剣勝負で臨んだ。
 ある時は結婚について論じ、ある時はスランプをどう乗り越えるかなど、青年の直面する問題について語っていった。
 そして、生涯、広宣流布の使命に生き抜くことを訴えたのである。
 伸一は、知識を教えたのではない。「不惜身命」の決意という“志”の種子を懸命に植えようとしたのである。
 文豪ゲーテは「動ずることのない志、それだけが人間を不朽の存在にする」(注)と明言した。
 大切なのは心である。その心に使命の火を点ずるために、わが生命を燃やし尽くし、青年の育成にあたったのである。



引用文献
注 アルベルト・ビルショフスキ著『ゲーテ高橋義孝・佐藤正樹訳、岩波書店