小説「新・人間革命」 宝塔19 3月27日

山本伸一は、高見福安と盛山光洋に、宿命の転換ということについて、さらに語っておこうと思った。

 伸一は話を続けた。

 「私は、沖縄の地で、小説『人間革命』を書き始めた。この小説のテーマは知っているね」

 盛山は即座に答えた。

 「はい。『一人の人間における偉大な人間革命は、やがて一国の宿命の転換をも成し遂げ、さらに全人類の宿命の転換をも可能にする』です」

 「そうだ。では、どうすれば、自身の人間革命を成し遂げ、宿命を転換していけるかだ」

 二人は、伸一の次の言葉を待った。

 伸一の厳とした声が響いた。

 「宿命を転換するといっても、それはまず、自分の一念を転換することから始まる。

 結論するならば、一念の転換とは、広宣流布の使命を自覚し、広布に生きると決めることです。

 戸田先生は、妙悟空のペンネームで書かれた『人間革命』で、そのことを教えてくださっているんです。

 軍部政府の弾圧で投獄された主人公の巌九十翁、すなわち戸田先生は、獄中にあって法華経を読み、唱題に唱題を重ね、こう悟達する。

 『おお! おれは地涌の菩薩ぞ! 日蓮大聖人が口決相承を受けられた場所に、光栄にも立会ったのだぞ!』

 法華経の虚空会の会座で地涌の菩薩が出現し、教主大覚世尊から、日蓮大聖人が地涌の菩薩の上首として、末法の正法流布を託される。

 戸田先生は、その場に自分もいたことを覚知されたんです。

 それを、巌さんの体験として、先生は『人間革命』に描かれた。

 そして、次のように巌さんが決意するところで小説は終わっている。

 『よし! ぼくの一生は決まった! この尊い法華経を流布して、生涯を終わるのだ!』

 この言葉こそ、戸田先生の究極の決意であり、創価学会の使命を明言しています。そして、ここに、人間革命、宿命転換の直道があるんです」

 高見も盛山も、目から鱗の落ちる思いがした。

 自分たちは今、仏法の極意ともいうべき、重大な話を聴いているのだと思った。



語句の解説

 ◎虚空会の会座など/虚空会の会座とは、虚空における釈尊法華経説法の集会のこと。法華経見宝塔品第十一から嘱累品第二十二までの説法の場をいう。

 地涌の菩薩は、法華経のなかで、釈尊滅後の弘教を誓って大地の下から出現し、末法における妙法流布を託された菩薩のこと。

 大覚世尊とは釈迦牟尼仏釈尊)の別称。大覚は仏の覚りのこと。世尊は仏の十号の一つで、世の衆生に尊敬される者を意味する。