小説「新・人間革命」 宝塔22 3月30日

 山本伸一は、地涌の菩薩について語ったあと、強い口調で再確認するように盛山光洋に言った。

 「人類の平和を実現するには、仏法の哲理を根幹とする以外にない。

 たとえば、人類には生存の権利があるといっても、それを裏付ける哲学がなければ、本当の思想の潮流とはならない。

 仏法では、万人が仏であり、また、慈悲の当体であると説き明かしている。これこそ生命尊厳の大原理です。

 その思想が、世界の指導者に、全人類の胸中に打ち立てられるならば、戦争など起こるはずがない。また、貧困や飢餓、疾病、人権の抑圧などが、放置されるわけがない。

 私たちがめざす平和は、誰もが人間らしく、幸福に生きることのできる社会の実現だ。

 そのための広宣流布であり、一宗派のためなどという偏狭な考えは、私にはありません。

 私が世界に伝えようとしているのは、この世から戦争をなくすための、生命の尊厳という普遍の哲理です。人間が人間らしく生きるための人間主義の哲学です」

 彼は語らいの最後に、盛山の手を握り締めて言った。

 「君たちの手で、沖縄に本当の平和を築いていくんだよ。

 それが戦争の惨禍に苦しみ、君たちを守り育ててくれた、お父さん、お母さんへの恩返しだ。

 今回の反戦出版は、その第一歩だね」

 「はい!」

 盛山の、燃えるような元気な声が響いた。  

 ――この語らいから四カ月半が過ぎた今、反戦出版の第一巻として『打ち砕かれしうるま島』が完成したのだ。

 約束通りの結果をもたらしてこそ誓いであり、弟子である。これが沖縄健児の魂であった。

 沖縄青年部は、その後も反戦出版に取り組み、翌一九七五年(昭和五十年)の六月には、『沖縄戦――痛恨の日々』が発刊される。

 これは、沖縄青年部が県下の百余会場で開いた「戦争体験を聞く会」で語られた体験をまとめたものである。

 この集いには、数千人の青年が参加している。いわば県民に根ざした反戦平和運動の大きな広がりのなかで、反戦出版沖縄編の第二集が誕生したのである。