小説「新・人間革命」 4月19日 宝塔39

 反戦出版では、子どもたちの被害に焦点を当てたものも少なくない。

 そして、戦争がその国の“今”を破壊するだけでなく、“未来”をも破壊する非道な行為であることを、様々な角度から訴えている。

 東京の青年部は、「学童疎開」した子どもたちを取材し、疎開先での空腹、いじめ、教師の横暴など、抑圧された生活を浮き彫りにした。

 滋賀県の青年部は、戦時中の教育者を中心に取材を進めた。

 そのなかには、“忠君愛国”を訴え、満蒙開拓青少年義勇軍などに教え子を送り出した教師たちの、拭い去ることのできない罪悪感がつづられた手記もあった。

 また、静岡県青年部の『みんな かつことをしんじてた――子供達の見た聖戦(1)』には、次のような話が紹介されている。

 寝かすと「ママー」と泣く、ドレスを着たママー人形を、ロープで縛って木につるし、国民学校の教師が猟銃で撃つ。そして、少年たちに木刀で叩かせたというのだ。

 子どもたちは、あの戦争を「聖戦」と教えられてきた。

 それを真っすぐに受け止め、国のために戦おうと、予科練などに志願した少年も多かった。

 この本には、こんな話も収められている。

 農学校に通っていたが、志願して予科練に入り、その訓練途中に終戦を迎えた少年がいた。

 彼は、母校である農学校に戻った。

 授業中、ある教師は冷淡に言い放った。

 「志願して兵隊に行った馬鹿者がいる」

 それを聞いていた、同じ予科練帰りの少年が、教壇に向かって走り出し、教師に殴りかかったのだ。

 信頼してきた大人たちに裏切られた、悲憤であったにちがいない。

 この軍国主義教育が行われていった時代のなかで、「教育は児童に幸福なる生活をなさしめるのを目的とする」(注1)として、教育改革を叫び続けてきたのが、牧口常三郎であり、創価教育学会であった。

 それは、命がけの平和建設の作業でもあった。

 「植物は栽培によってつくられ、人間は教育によってつくられる」(注2)とは、フランスの思想家・ルソーが、『エミール』に記した名言である。



引用文献

 注1 「創価教育学体系」(『牧口常三郎全集5』所収)第三文明社

 注2 ルソー著『エミール』今野一雄訳、岩波書店