小説「新・人間革命」 宝塔42 4月23日

 山本伸一は、微笑みを浮かべて言った。

 「こんにちは!

 皆さんは勝ちました。人生の試練を見事に乗り越えてこられた。今日は、さらに新しい前進のために、一緒に勤行をしましょう」

 そして、仏壇の前に進むと、一人ひとりを見つめながら語り始めた。

 「皆さんとは、お会いできなくとも、毎日、お題目を送っております。

 苦しみ、悩み、そして信心に目覚め、懸命に広宣流布のために戦っている人こそ、誰よりも幸福になる権利がある。

 しかも、皆さんは、障害がありながら、どんな困難も乗り越えて、私と共に広宣流布に生きようと決意されている。本当の私の弟子です。日蓮大聖人の子どもです。

 その尊い方々を、大聖人が守られないわけがありません。ゆえに、皆、最高の幸福の道を歩みゆく方々であると、私は断言しておきます」

 大確信にあふれた、強い語調であった。

 その言葉に、皆の胸は熱くなった。うっすらと涙を浮かべる人もいた。

 集ったメンバーは、いやというほど、人生の辛酸をなめてきた。

 不慮の事故で失明し、絶望のどん底に叩き落とされた人もいる。職を得ることもできず、家族からも冷たい仕打ちを受けてきた人もいた……。

 子どものころから、目が不自由なために、いじめられてきた人もいる。

 しかし、信心に巡り合い、山本伸一の指導に接して、希望の人生行路を歩み始めたのである。

 それだけに、伸一を求める心は強く、彼の言葉が、人一倍強く胸に響くのであった。

 「人生を確固たる信仰の基盤の上に打ち立てるということは、不幸はありえないということです」(注)

 これは、トルストイの言葉である。そこに信仰というものの力がある。

 伸一が話を終えると、会場のあちこちで、「先生!」という声があがった。皆、自分の思いを、伝えたくて仕方なかったのだ。

 彼は、一人ひとりの話に耳を傾けたかったが、次の会議が迫っていた。

 伸一は言った。

 「皆さんの気持ちは、よくわかっています。同志ではないですか。何も心配はいりません。一緒に生きていこう! 一緒に戦い抜いていこう!」



引用文献:  注 『トルストイ全集76』ロシア語版