小説「新・人間革命」 4月26日 宝塔45

人間は助け合わなければならない。体などに障害があれば、温かい援助の手が必要である。とともに、自立自助をめざす心が大事になる。

 その自立を阻むのが、甘えの心である。

 甘えは、時に自分自身を不幸にする要因となる。自分の思いや要求が満たされないと、他人や環境、運命を恨み、憎むようになるからだ。

 不平や文句、恨みや憎悪に明け暮れる人生は悲惨である。

 幸福とは、自分の胸中に歓喜の太陽を昇らせることだ。自身の輝ける生命の宝塔を打ち立てることだ。それには自らの生命を磨く以外にない。

 「人間を変えるものは環境ではなく、人間自身の内なる力なのです」(注)とヘレン・ケラーは訴えている。

 自分を磨き、強くし、自身を変えゆく道こそが信心なのだ。

 山本伸一は、深き偉大な使命を担った「自在会」のメンバーに、強くなってもらいたかった。一人ももれなく幸せになってもらいたかった。

 宿命に、社会の冷たさに、自己自身に、決して負けないでほしかった。

 だから彼は、信心の姿勢を、厳しいまでに訴えたのである。

 伸一は言葉をついだ。

 「南無妙法蓮華経は生命の本源であり、宇宙の大法則です。その仏法を皆さん方は、幸せにも持っている。

 世界を見れば、また過去の歴史を見れば、何十億という人が、この妙法に巡り合うことなく、亡くなっている。不幸に泣き、死を恐れ、不安に苦しみながら死んでいった人も少なくない。

 あえて言えば、それはわびしく沈みゆく人生といわざるをえない。

 しかし、妙法を持った皆さん方は、昇りゆく人生です。赫々たる太陽の人生です。

 生命の奥底に信心の輝きがあるならば、三世永遠の生命観のうえから見て、来世、再来世と、体も健康で、幸せに満ちあふれた所願満足の境涯になっていかないわけがありません。

 これを確信して、朗らかに進んでください」

 「はい!」

 力のこもった、晴れやかな声が響いた。どの顔にも涙が光っていた。

 皆、自分たちを思う伸一の真心を、限りない優しさを、強く、強く、感じていたのである。



引用文献: 注 ケラー著『光の中へ』鳥田恵訳、めるくまーる