小説「新・人間革命」 友誼の道18  5月22日

 教員は語った。

 「私たちは、児童に、将来、何になりたいかという理想を描かせ、目標をもてるように指導しています。また、人民に奉仕することの大切さを自覚させることに力を注いでいます」

 さらに、教育を生産労働に結びつくものにするために、努力を払っていると説明し、力を込めて訴えた。

 「モノサシや秤を使えなくては、生活はできません。

 土地を測れない算数に、なんの意味があるでしょうか。トウモロコシとコーリャンの違いもわからない教育では、役に立ちません」

 伸一は何度も頷いた。

 「おっしゃる通りだと思います。皆さんのお話は、大変に参考になります。それが日本の教育にとっても必要なんです」

 伸一は、教育に情熱を燃やす教員たちの姿に触れて、中国の未来に大いなる希望を感じた。

 「未来は教師の手にある」(注)とは文豪ユゴーの小説の一文である。

 それから伸一たちは、いくつかの教室を回り、授業を参観した。

 「ニーハオ!」

 伸一が、気さくに児童に語りかけると、「ニンハオ!」という元気な声がはね返ってくる。

 「全世界の人びとのために、しっかり勉強し、明るく、すくすくと育ってください」

 子どもたちは、はにかむような表情で、伸一の言葉に頷いていた。

 また、学校に、小さな象棋(中国将棋)の工場が併設されていた。

 ここでの労働を通し、子どもたちは労働の大切さを学び、学習した知識を労働生産に生かすのだという。その指導には、定年退職した技術者があたっていた。

 労働によって学習時間が不足し、学力の低下を招いてはならないが、大事な視点であろう。

 伸一は、喜々として生産作業に励む子どもたちを見て、顔をほころばせながら、つぶやいた。

 「牧口先生がいらっしゃったら、喜ばれるだろうな……」

 初代会長の牧口常三郎は、明治後期から、「半日学校制度」を提唱してきた。

 それは、半日は学校で学び、残りの時間は社会の生産活動に従事することによって、健全な心身の発達を図ろうという構想であった。



引用文献: 注 「レ・ミゼラブル」(『ヴィクトル・ユゴー文学館3』所収)辻昶訳、潮出版社