小説「新・人間革命」 友誼の道19  5月23日

参観の後にも、教職員との懇談が行われた。

 山本伸一は、教師たちに次々と質問をぶつけていった。

 「家庭ではどういう教育をするように訴えていますか」

 「個人の個性の違いを伸ばすうえで、どのような教育啓発を行っていますか」

 「語学教育は、何歳ぐらいから行った方がよいと考えますか」

 伸一は、常に、あらゆる機会を通し、あらゆる人から、学んでいこうと心に決めていた。そう思うと、質問は際限なくわいてきた。

 質問は、向上心、向学心の表れといってよい。

 伸一の質問に、教員たちからは、自信にあふれた答えが返ってきた。

 彼は、こんな質問もぶつけてみた。

 「さきほど、政治教育、思想教育を行っているとのお話がございましたが、どのように行われているのでしょうか」

 「『政治』という教科もありますので、主に、そこで学習します。

 学年によって教え方は異なりますが、革命の伝統精神を学び、人民に奉仕する心を受け継ぐことに力を注いでいます。

 そのためには、雷鋒など、英雄的な人物から学ぶことも大事です」

 雷鋒は、貧しい農家に生まれ、幼くして父母を亡くしている。解放後、雷鋒は学校に通い、やがて人民解放軍に入る。

 彼は多くの善行を積み、模範兵士として周囲の信頼を勝ち得ていく。しかし、公務中に事故に遭い殉職するのである。二十二歳であった。

 思想といっても、それを体現する、模範の存在が必要である。

 人間の生き方によって、思想の正しさは証明されるのだ。

 伸一は重ねて尋ねた。

 「子どもたちが、客観的に自国の政治を見ていくために、どんな工夫をなさっていますか」

 「はい。時事問題などを通し、他国の政治についても学習しますし、以前の中国の政治との違いも学びます。

 さらに、教師が講義をするだけでなく、児童同士が討論し、思想を自分のものにするように努力しています」

 お仕着せの思想は、人間の心に深く定着することはない。子どもが主体的に判断できるようにすることに、教育の重要なポイントがある。