小説「新・人間革命」  5月26日 友誼の道22

 廖承志会長は、一九六八年(昭和四十三年)の第十一回学生部総会で、山本伸一が行った、「日中国交正常化提言」に言及し、その内容を再確認するように語ると、強い語調で言った。

「われわれは、中日関係の問題に対する山本先生のすぐれた先見の明と、積極的な態度を賞讃すると同時に、敬服しております」

 そして、さらに中日の友好関係を発展させたいと述べ、話を結んだ。

 それに応えて伸一は、真心の歓迎に謝意を表したあと、こう訴えた。

創価学会は、まだまだ小さく、未熟な存在かもしれませんが、真剣に平和と友好を保ちゆこうとする熱情だけは、ご了解いただきたいと思うのであります。

 また、諸先輩が築いた友好の“金の橋”を大切にしながら、さらに拡大し、子々孫々まで確かなものとするために、誠心誠意、生涯をかけて尽くしてまいる決心であります」

 やがて、食事を共にしながらの懇談となった。

 廖会長は、訪中団の一人ひとりに、中国に対する印象を尋ねていった。

 伸一の妻の峯子も、感想を求められた。

 彼女は、自分は、あくまでも、団を陰で世話をするための同行であると考え、努めて発言を控えてきた。

 ところが、中国側の人たちは、笑いながら「それは、ずるい」と抗議するのである。

 峯子は言った。

「困りましたわ……。

 それでは、一言、率直に感想を語らせていただきます。

 日本では、共産主義は怖いと言われてきました。ですから、正直なところ、私は、貴国にも怖い国というイメージがありました」

 伸一は思わず峯子の顔を見た。何を言い出すのかと、驚いた。

 峯子はたじろぎもせず、微笑みを浮かべて言葉をついだ。

「でも、お話をしてみると、愛情のあふれた、人間的なお国であることがよくわかりました」

 拍手が起こった。

 廖会長の声が響いた。

「正直に本当のことを言われた。それでこそ、友人になれます!」

 峯子の発言で、心の距離は、ぐっと縮まった。

 真心をもって真実を語れ――そこから友情は深まるからだ。





引用文献

 注 「獄中闘争のいささかの経験から」(『廖承志文集』所収)安藤彦太郎監訳、徳間書店