小説「新・人間革命」 友誼の道24  5月29日

山本伸一は、案内をしてくれた少女に尋ねた。

 「あなたは、将来、どんな仕事に就きたいと思いますか」

 少女は答えた。

 「人民が望むなら、どんな仕事でもします」

 伸一は感嘆した。

 人民に奉仕することの大切さを、徹底して教えているのであろう。

 人のために何をするか――人や社会への貢献の行動の大切さを教えてこそ、人間教育がなされるといえよう。

 この精神が子どもたちの共通の生き方として定着していくならば、他に類を見ない、すばらしい社会として発展を遂げていくにちがいないと、伸一は思った。

 彼は、少女と一緒にインスタントカメラに納まり、出来上がった写真を彼女に贈った。

 少女は、嬉しそうに、何度も「謝謝!」(ありがとう)と言って、顔をほころばせた。

 一行が会場を移動していると、「加油! 加油!」という掛け声と歓声が響いていた。

 見ると、三輪車競走が行われていた。「加油」とは、「頑張れ!」の意味であるという。

 伸一も「加油!」と一緒に叫んで応援した。

 三輪車競走の表彰式になった。

 伸一の近くにいた子どもが、おどけて、指で“カメラ”の形をつくり、ファインダーを覗いて、シャッターを押すしぐさをした。

 その姿に、笑いが渦巻いた。伸一は、同行していた聖教新聞のカメラマンに、インスタントカメラで、この少年のしぐさを撮ってもらった。

 「君の決定的瞬間を写真に撮ったからね」

 伸一の言葉を通訳が少年に伝えていると、子どもたちが集まってきた。そして、インスタントカメラの映像が浮かび上がるのを、まだかまだか、と待っていた。

 写真ができた。大歓声があがった。

 伸一は言った。

 「では、この写真の贈呈式を行います」

 そして、「日中友好のために、記念に差し上げます」と言って、少年に差し出した。

 少年は、それを恭しく受け取った。

 「ありがとうございます。私たちも中日友好のために努力いたします」

 少年の澄んだ声が響くと、拍手が起こり、明るい笑いがこだました。